新刊紹介 | 編著/共著 | 『ラッセンとは何だったのか? 消費とアートを越えた「先」』 |
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石岡良治・北澤憲昭・千葉雅也・星野太(分担執筆)
原田裕規(編)
『ラッセンとは何だったのか? 消費とアートを越えた「先」』
フィルムアート社、2013年6月
本書は、マリン・アーティストとして知られる美術家クリスチャン・ラッセン(1956-)をめぐる論集である。1990年代にヒロ・ヤマガタとともに一世を風靡し、現在でも大衆的な人気を誇るラッセンの作品は、これまで現代美術という制度の内側においては一貫して黙殺(ないし嘲笑)の対象とされてきた。実際ラッセンは、現代の日本においてその名がもっとも広く知られながら、従来まったくと言っていいほど批評的に語られる機会をもたなかった作家のひとりである。本書が野心的な試みたりえている最大の理由のひとつは、端的に、これまで誰もが避けてきたラッセンという固有名をはじめて正面から取り上げたところにある。
本書の編者・原田裕規が企画した「ラッセン展」(2012年)が見事に浮き彫りにしたように、ラッセンの作品およびその受容について考えることは、私たちがしばしば無批判に受け入れがちな「美術」という制度を反省的に考察するための重要な契機となる。事実、本書の第一の軸は、日本の消費社会や現代美術という制度に焦点を合わせた社会学的なアプローチにある。だが同時に本書の第二の軸として、ラッセンの作品そのものをめぐる精緻な分析があることも付け加えておかねばならない。イルカをはじめとする彼の代表的なモティーフを文化的・図像学的に分析した論考が盛り込まれることによって、本書の試みにはさらなる奥行きが与えられている。ラッセンの作品分析から現代美術の制度分析へ、さらにはその背後にある日本社会の精神分析にまでおよぶ15本の論考が示すのは、おそらく、ラッセンという対象を写し鏡とした「われわれ」の規範と欲望をめぐる分析である。(星野太)
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