新刊紹介 単著 『文化と暴力 揺曵するユニオンジャック』

清水知子
『文化と暴力 揺曵するユニオンジャック』
月曜社、2013年5月

本書はサッチャー政権以降のUK社会を「文化のなかにはつねにすでにある種の暴力が組み込まれている」(p. 12)という視点に基づいて読み解いている。扱われている題材はヴィヴィアン・ウェストウッド、元ウェールズ公妃ダイアナ、チャイニーズや南アジア系などの移民、『悪魔の詩』、ドックランズ再開発など、UK文化に興味のある者ならどこかで聞いたことはあるようなものが多い。こうした多彩かつポピュラーな題材を扱うにあたり、本書は社会的背景などを考慮しつつ単純な一般化に走らない慎重な分析を行っているが、一方で常に「文化とその中の暴力」という視点を軸にしており、統一感のある著作となっている。近年、様々なUKの文化現象を「ネオリベラリズム」のみを切り口に単純化してしまう論考が多いことを考えると、本書にある『マイ・ビューディフル・ラウンドレッド』や『トレイン・スポッティング』などの簡潔だが微細な差異にも配慮した分析は非常に興味深いものとして読めるだろう。欲を言えば「ユニオンジャック」と題するからにはUKを構成するイングランド以外の国の文化と暴力に関する分析がもっと読みたいところではあるが、これは今後の研究に期待したい。(北村紗衣)