新刊紹介 | 単著 | 『安部公房とはだれか』 |
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木村陽子
『安部公房とはだれか』
笠間書院、2013年5月
「安部公房とはだれか」などと問うまでもない、と我々はつい思ってしまう。『砂の女』などの前衛的な作品によって人間や社会の不条理を描き、戦後文学をリードして海外でも高く評価された作家――もちろん、それで間違いではない。だが、そのような通り一遍の理解では、ラジオ、写真、テレビ、音楽など様々な媒体を立ち回り「マルチメディア・アートの先駆者」として八面六臂の活躍をした彼のキャリアを捉え損ねてしまうだろう。木村陽子の新著が提出するのは、常に「新たな」表現方法を追い求めて最先端のメディア技術に貪欲に掴みかかった、文字通りの意味で前衛的な実験者としての安部の姿だ。巻頭に折り込まれたカラーの年表が素晴らしく、同時展開された彼の多方面での活躍が一目で見渡せる。日本の特殊性に依存することを拒絶し、常に世界的で「普遍的」な「新しさ」を追い求めた安部にとって、「新しさ」とは表現の内容だけでなく表現の媒体も含んだものであった。それが戦後日本の文化を刺激し、挑発し続けたことは、本書に引用された新聞記事の数々や彼に関わりのあった人物たちへのインタヴューが証しだてている。表現者、安部公房の多彩な挑戦を我々に開示する好著である。(高村峰生)
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