新刊紹介 | 編著、翻訳など | 『芸術の陰謀 消費社会と現代アート』 |
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ジャン・ボードリヤール
『芸術の陰謀 消費社会と現代アート』
塚原史(訳)、NTT出版、2011年10月
原書はJean Baudrillard, Le complot de l’art (Sens et Tonk, 1997)およびこの評論をめぐるインタビューや著者自身の論考を収録したもので、訳者が「現代思想のキーワード」「『芸術の陰謀』というボードリヤールの陰謀」を書き加えました。初出は1996年の『ルモンド』紙上で、ボードリヤールは「現代芸術は無価値・無内容(nul)だ」と言い放って、欧米の美術・思想界で激しい反応を引き起こしました。彼の主張は(デュシャン以後)現代アートは難解で意味不明なものと受け取られ、それを理解できない大衆は、そこには自分たちにはわからない価値があるはずだと思っているが、じつは現代アート自体が「無価値・無内容」になっているのであり、その事実を覆い隠すために、あえて「無価値・無内容」を装うという陰謀をたくらんでいるのだというものです。この陰謀は、現代アートの作品に超高額の値を付ける美術市場とアーティストの「インサイダー取引」によってますます巧妙になっていると、ボードリヤールは鋭く指摘しています。その当否は読者の判断にゆだねるとしても、ボードリヤールはキュッセの『フレンチセオリー』に記述されたように、1980年代アメリカの美術界に旋風を巻き起こして以来、消費社会と現代アートの関係について論じ続けた最も注目される思想家の一人であり、今回の書物は、日本紹介が遅れたとはいえ彼の代表的現代アート論です。(塚原史)
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