新刊紹介 編著、翻訳など 『ひとはなぜ乳房を求めるのか──危機の時代のジェンダー表象』

千葉慶ほか(分担執筆)
『ひとはなぜ乳房を求めるのか──危機の時代のジェンダー表象』
青弓社、2011年8月

古代より現代に至るまで、ひとは乳房(特に女性の)を魅惑的対象と捉える一方で、宗教的・倫理的な観点から可視化を規制してきた。もっとも、そのイメージは、不可視を建前としながらも、「エロス」「卑猥」から「母性」に至るまでのさまざまな社会的価値観と結び付けられて常に可視化されており、その時代・社会にふさわしいジェンダー秩序の(再)生産を担い続けてきたのではないか。

本書は、社会秩序およびジェンダー秩序に揺らぎが生じ、それらの再編・再生が模索される「危機」のモメントに着目し、中世ヨーロッパの医学言説、近世ヨーロッパの宗教画、戦時期の日本映画、1960年代~80年代日本のポルノ映画、現代日本のピンクリボンキャンペーンを対象としたケーススタディーによって、乳房イメージがジェンダー秩序の(再)生産を担うに至る具体的プロセスを明らかにするものである。2011年3月の大震災以来、わたしたちは今まさに「危機」のモメントを生きている。「危機」において、表象はわたしたちに何を物語るのか。わたしたちは表象を通して何を物語ろうとするのか。本書には、その問いを考えるためのヒントが記されている。(千葉慶)