新刊紹介 単著 『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化2』

原克
『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化2』
柏書房、2011年

20世紀を彩った科学技術の「聖画像=イコン」集成、その第二弾である。これまでも東西の「ポピュラー系科学雑誌」を渉猟し、無数の「科学神話」の存在を抽出してきた著者はここで、その「神話」の成立を視覚的に補完してきた魅惑的な図版の数々を、「モダン胃袋」から「性能実験室」に至る——一見奇妙な、しかし的確と言うほかない——7つの章題のもとに分類・整理し、読者の眼前に次々と繰り広げてみせる。X線によって透視されたミイラたちが霊的信仰を振り払う科学的啓蒙のイコンとして紹介されたかと思えば、ヘッドホンを通じてひとりラジオを楽しむ女性の姿は「プライバシー」概念を惹起する特権的テクノロジーのイコンとして定位される。目も綾に展開されるイコン群とそれに付された詳細なキャプションはそれだけで、20世紀を席巻した神話への知的好奇心とノスタルジーとを、ともども満足させてくれるだろう。

そう、見開き或いは頁という矩形の制約のうちに鏤められたイコンの群れに視線を泳がせる快楽は、図鑑を開いて未知の生物に心躍らせた幼い日の記憶に、どこか通じるものがある。しかし著者は、そうした退嬰的な読書態度を決して許すことはないだろう。イコンを愛でることの愉楽を存分に見せつけながらも「科学神話」への耽溺を厳に戒める著者の姿勢は、3.11以降における「原子力平和利用の神話」解体の必要性を訴え、さらにはそれを科学技術による利便性追求という20世紀特有の「神話」との関連のうちに位置づける本書冒頭の記述に明白である。科学的万能性に彩られた近過去への郷愁というエキゾティシズムを排し、現在そして未来を批判的に見通すためのインデックスとしてこの一冊を機能させること——これこそ、この「科学神話総覧」との正しい付き合い方であるように思われる。

とはいえ、読むこと=見ることの逸楽そのものを否定する必要はあるまい。すべての項目の冒頭に付された、これまた古今の文芸から自在に召還されるリード文——ヘッドホンに『ツァラトゥストラ』、製氷皿に『地獄の季節』、そしてガレージシャッターには『クリムゾン・キングの宮殿』——は、或る時には未知の過去を理解する補助線として、また或る時には解読し難い謎めいた警句として読者の想像力を増幅してくれると同時に、その神話の「外部」への逃走のヒントとしても機能してくれることだろう。この逃走への誘いに乗って、眼の愉楽そのものの内側から神話の呪縛を振りほどいてゆくこと——それは恐らく、「表象」なるものを問いつづけてゆくことの、決して甘くはない、苦みを伴った豊かな悦びへと通じていよう。表象文化論の初学者から物質文化研究のエキスパートまで、幅広く薦めたい一冊である。(福田貴成)