新刊紹介 単著 『共生のプラクシス 国家と宗教』

中島隆博
『共生のプラクシス 国家と宗教』
東京大学出版会、2011年10月

問いの書であり、批判の書である。

問われているのは一貫して〈他者と共に生きることはいかにして可能か〉であるが、より具体的に批判的検討の俎上に載っているのは「小人」「死者」「儒教」である(前二者が「他者」、第三者は「共生」をめざす思想の、それぞれ検討事例であると考えることができよう)。これらのそれぞれが指し示してきたこと、指し示しうることが何であり何でないかということが、古今の中国哲学や現代のフランス哲学をはじめとした諸テクストをつうじて周到に考察されている。前作『残響の中国哲学』をはじめ他の著作でもみられた簡勁な文体は本書でも発揮されており、紹介子のように中国哲学を能くしない読者であっても、順を追って読めば議論の筋道や著者の立場は明瞭に把握できるよう配慮されている(裏を返せば、それ以上に要約することが困難なまでに各文各語が負荷を担っているということでもある)。

冒頭の問いに対する積極的な解答ばかり求めて本書を読めば、肩すかしの感をおぼえる向きもあろう。だが、本書が示しているのは、件の問いに対して想定できそうな解答の数々が、すでに先人が提起し、吟味し、袋小路に追いこみ棄てるという過程を経たものであり、そうしたことをふまえずして安易に論じたてることなどもはや許されないという現実にほかならない。その点では、本書の表題には強烈なイロニーがこもっているように感じられてならない。すなわち、〈他者と共に生きること。できると言うならやってみよ〉と。(三河隆之)