新刊紹介 | 単著 | 『建築のエロティシズム 世紀転換期ヴィーンにおける装飾の運命』 |
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田中純
『建築のエロティシズム 世紀転換期ヴィーンにおける装飾の運命』
平凡社新書、2011年
「性欲ではなくエロティシズムを生み出すのは、論理以外の何ものでもない。」本書はこのような命題のもと、ロースにおける装飾、ヴァーグナー建築におけるボルト、装飾の記号論としての精神分析、ココシュカにとっての皮膚、ヴィトゲンシュタインの建築における扉/窓などを俎上に載せながら、世紀末ヴィーンを代表する顔ぶれの思考あるいは欲望の根底にある「論理的な官能性」に焦点を当てる。そのなかでも、様々に変奏されていくエロティシズムの様態を貫き議論に一定の枠組みを与えつつも、それぞれを差異化する蝶番のような役割を演じているのはロースである。ロースによる生と芸術、性道徳と犯罪、法とエロスの間の差異の肥大化は、同時代のエロスの論理と呼応し合いながら逆説的にもそれらの境界の破壊にも近づいていく。本書において活写されているのはそのようなロースの視線を介した、様々なエロスが蠢く「装飾の都」である。
ここで分析の対象となるいくつかの建築は同著者による『残像のなかの建築』(未来社、1995年)でも扱われているが、本書においてはそれらが濃密なエロスの漂う世紀転換期ヴィーンの文脈に置き直され、さらにドイツ・ヴァイマール共和国の「ペニスの建築」へと連結されることで、近代建築における「装飾の運命」の顛末を辿ってもいる。著者のこれまでの近代建築に関する仕事を「建築のエロティシズム」として括る本書は、著者自身の「ヴィタ・セクスアリス」であると言っても過言ではないだろう。(古川真宏)
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