新刊紹介 単著 『暇と退屈の倫理学』

國分功一郎
『暇と退屈の倫理学』
朝日出版社、2011年10月

3.11の災厄が襲ったとき、すでにトゥーヒー『退屈』の翻訳プロジェクトをスタートさせていたわたしは、災厄そのものに強い衝撃を受ける一方で、こんなときに「退屈」についての本など出している場合なのだろうかと悩んだものだった。いまの日本のどこに「退屈」している人がいるというのか。われわれをはてしない退屈に閉じこめていた「終わりなき日常」は、もはや断ち切られてしまったかのようではないか。

すでに各所で話題となっている『暇と退屈の倫理学』にも、『退屈』同様、3.11への直接的言及はない。だがこの本を読みながら「3.11以後」の状況を考えるとき、直接の被災者以外の人間が、自己反省せずにいるのは難しい。われわれは、ニーチェが語った20世紀の若者たちのように、退屈から救い出してくれる「大義」を見つけたのではあるまいか?あるいはさまざまな議論の過程において、こともあろうに、新たな「消費」の対象を見つけたりはしなかったか?どこまで行ってもわれわれは、「退屈」の用意した枠から逃れることはできない。「退屈」は、つねに考えるに値する主題なのだ。

ではその「退屈」をどのように生きるか。「倫理学」と銘打たれた本書は、結論部でいくつかの答えを出している。しかし何より見事なのは、そこに至るプロセスの記述方法だ。ハイデッガーやボードリヤールらの単なる「紹介」におちいることなく、丁寧に読みこみながらひとつひとつを乗り越えていく、著者の思考過程を追体験させる本書は、幅広い層の人々をさらなる思考へといざなってくれるだろう。(篠儀直子)