新刊紹介 | 単著 | 『都市の解剖学 建築/身体の剥離・斬首・腐爛』 |
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小澤京子
『都市の解剖学 建築/身体の剥離・斬首・腐爛』
ありな書房、2011年10月
本書は18~19世紀西欧における建築・都市のイメージを対象として、そこに認められる身体と建築とのアナロジカルな照応を切り口に、例えば廃墟を「切り開かれた裸体」と見なすような、解剖学的想像力の諸相を浮き彫りにした書物である。取り上げられるのは、ピラネージ、ルクー、ルドゥーといった建築家や廃墟画の画家たちのほか、ゴーティエ、ユイスマンス、ポーなどの作家たちだ。
本書では、ピラネージにおける古代ローマの復元図に潜む「皮剥」の欲望があぶり出され、「国王の建築家」ルドゥーによる「建築の観相学」が、性愛の革命を企図したサドの閨房建築案に相通じるような、怪物/畸形じみたイメージをいかにして生むにいたったかが追跡される。そして、建築から人体に向かうこのヴェクトルが最終章では逆転されて、19世紀の文学テクストにおける廃墟化する人体の表象というアレゴリー的イメージが解読されることになる。
そのトポスは、外部/内部、可視/不可視の狭間にあって侵蝕や裂開を被る、不安定で脆弱な境界面としての皮膚にある。裸体の建築が切り開かれる光景を「眼の指で撫でる」ように分析=腑分けする著者の繊細な文体もまた、この危険な境界面に魅せられた、ひとりの解剖学者のそれであろう。多数の図版が効果的に使われているため、読者もまた、その視覚的愛撫ないし切開の欲望を共有することができるに違いない。(田中純)
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