新刊紹介 翻訳 『叛逆 マルチチュードの民主主義宣言』

水嶋一憲・清水知子(共訳)
アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート(共著)
『叛逆 マルチチュードの民主主義宣言』
NHK出版、2013年3月

本書は、ゼロ年代に〈帝国〉三部作を完成させたアントニオ・ネグリとマイケル・ハートが、2011年に世界各地でバトンを手渡すようにして発生した、新たな社会運動と闘争のサイクルと並走しつつ書き上げた「共同調査(コンリチェルカ)」の試みである。

ネグリとハートによれば、新たなサイクルを構成する各々の闘争や運動は、それぞれのローカルな文脈と強く結びついたものであると同時に、「マルチチュード」という組織形態を通じて「〈共〔コモン〕〉」を求める闘争であるという共通の特徴を有している。またそれらは、近年の新自由主義の勝利と危機のなかで作り上げられた四つの疲弊した主体形象――借金を負わされた者」、「メディアに繋ぎとめられた者」、「セキュリティに縛りつけられた者」、「代表された者」――を反転させ、〈共〔コモン〕〉を作る「共民〔コモナー〕」を構成する潜勢力を宿したものとして捉えられる。

この短いけれども濃密な小著で、ネグリとハートが鮮やかに、そして力強く描き出している、〈共〉への権利の「宣言」からその「構成」へといたる移行経路は、代表(代議制)と表象(メディア)というRepresentationの根本問題をラディカルに問いただしながら、3・11後の現在を生きる私たちの前にも、無数の入り口を備えた「共同実験室〔ラボラトリー〕」として開け放たれている、と言えよう。そこでは多数多様な人びとが、無力化された主体形象をひっくり返して、「真の民主主義」を創出し、「〈共〉を作る共民」に生成変化するための実験が試みられるのである。(水嶋一憲)