新刊紹介 単著 『ナショナル・ポートレート・ギャラリー その思想と歴史』

横山佐紀
『ナショナル・ポートレート・ギャラリー その思想と歴史』
三元社、2013年2月

ベネディクト・アンダーソンはナショナリズムの起源を、印刷メディアによって開かれた活字空間に書き込まれる「われわれ」意識の伝播に見たが、その意識をより幅広い層に拡散し、目に見える形で定着させるためにはまた別の媒体が必要となる。著者はそうしたメディアとしてアメリカ合衆国のナショナル・ポートレート・ギャラリーを取り上げ、そこで展示される人物の歴史的重要性はどのようにして決定されるのか、そしてそのようにして作り上げられた歴史表象やアイデンティティの正統性はどのように担保されているのか、またその際に行われる選択と排除という政治的行為の主体とはいったい何者なのか、という問題を綿密な調査に基づいて検討している。なかでも本書で著者が着目しているのは民間企業や財団といったプライベート・セクターの役割であり、そういった民間から提供される資金を媒介にして社会との交渉や協働、あるいは合意形成が行われていること、またそれがときには歴史や作品の価値付けにも及んでいることなどが示されている。伝統的な博物館学だけでなく「ニュー・ミュージオロジー」とも呼ばれる新しい領域に関心を持っている研究者や大学院生は必読であろう。(小林剛)