翻訳
黒人法典:フランス黒人奴隷制の法的虚無
明石書店
2024年6月
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ルイ14世統治下の1685年、フランス・カリブ海植民地における奴隷制の運用を規定すべく全60条から成るひとつの王令が公布された。少数の専門家を除いてほぼ知られることのなかったこの法文書──いわゆる「黒人法典」──を復刻して忘却の淵から引き上げた本書が1987年の刊行から連綿と版を重ねた結果、奴隷制の歴史をめぐってフランス語圏で交わされる今日の議論は少なくともその存在を見ぬふりをすることだけはできなくなった。そのかぎりで、これは後戻りしようのない一点を画した、まぎれもなく創始的な書物である。と同時に、その創始はまぎれもなく戦闘的な叙述をともない、啓蒙思想家(なによりモンテスキュー、ルソー、しかしまたレナルとディドロ)の「沈黙」、奴隷制廃止論者の「妥協」に著者が向ける苛烈な指弾もあって、アカデミアによる数多の(ときとして揶揄を交えた)批判を呼び込むことにもなった。訳者の片割れとして、作業の過程で怖気づく思いのする場面もあったことは後記に記したとおりである。逆に、いまや著者の代名詞ともなった書物のしかし初めての翻訳出版とともに、本国ではたぶんもはや解きほぐしがたくなってしまった論争的構図とは異なる読解・検証の糸口がどこかで開けぬものか──見通しがあるのではないが、しかし心からそう願っている。
(森元庸介)