日本ファッションの一五〇年:明治から現代まで

『日本ファッションの一五〇年』は、明治から現代に至る日本の「ファッション」の歴史を包括的に論じた労作である。その中心に据えられているのは、従来、戦前と戦後で記述の焦点が分断され、ケーススタディ的に断片化されがちであった「日本ファッション史」研究への問題提起である。本書は、装いの形態にとどまらず、それを取り巻く人々の思考や行動を抜本的に変容させた政治的外圧を背景に、この150年間で日本におけるファッションがどのような変化を遂げてきたのかを問う。戦前と戦後を貫く歴史的な視点を通じ、西洋中心主義との緊張関係において形成されてきた力学としての「日本ファッション史」を探る姿勢にこそ、単なる流行の変遷にとどまらない独自性があるといえよう。
明治期から歴史記述が始まる本書では、装いの変容を強いる諸力が明治国家の「服制」といった公的制度からも論じられる。そこで照射されるのは、帝国主義の欧米列強と日本、あるいはジェンダー間の非対称性の中で洋装が広まっていく過程を詳細に分析し、戦後以降のファッションに与えた影響、たとえば「なぜ男性はスーツを着るのか」といった一見普遍的に思える価値規範との連続性である。現代社会におけるファッションを取り巻く通念や問題意識を出発点とし、装いに内在するイデオロギーを遡行的かつ複線的に辿ることで、歴史的文脈を立体的に浮かび上がらせる構成も、本書の際立った特徴の一つである。
このような本書のアプローチを支えるのは、学術研究の対象としてのファッションが抱える構造的困難を問い直し、ディシプリン中心主義を乗り越えるべく模索されてきた著者による「ファッション研究」の立場からの批判的視座である。「ファッションとは何か」という理論的問いに対し、具体的な歴史記述を通じてその実態を明らかにすることで、ファッションの歴史化をめぐる方法論的課題にも応答する。豊富な資料と緻密な分析をもとに、日本ファッション史を領域横断的に描き出す試みは、既往研究に対する批評的な成果としての意義も持つといえよう。
(五十棲亘)