編著/共著

加須屋明子(編)、レシェク・ソスフノスキ、吉岡洋、アンダ・ロッテンベルク、山下晃平、マリア・ブレヴィンスカ、ピョトル・フォレツキ、重田園江、加藤有子、ピョトル・リプソン、パヴェウ・パフチャレク、井出明(分担執筆)

芸術と社会:表現の自由と倫理の相克

中央公論美術出版
2024年10月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

本書は、2020-2024年の科研費「芸術と社会-表現の自由と倫理の相克 歴史修正主義を超えて」(代表:加須屋明子)の一環として、2022-2023年に開催された国際ワークショップ(オンライン4回、対面1回)および2023年12月に開催された国際会議「芸術と社会」(対面とオンライン併用)を基に、関連する論考を編集したものである。本研究では、芸術と社会の関係を歴史的経緯を踏まえつつ、現代美術の最新状況に至るまで検証し、特に歴史修正主義を乗り越える視座の構築を目指した。

芸術と社会は常に密接に関わり合い、その関係性は複雑に推移してきた。芸術は、思想や感情を力強く表現する手段である一方で、社会の規範や価値観に挑戦することもあり、しばしば芸術表現と倫理的配慮の間で緊張や対立を生む。検閲や歴史修正主義は、過去と現在の物語をコントロールしようとする権力の形態の一部として存在しており、それらに屈せず創造的活動を展開することは、私たちにとって権利であると同時に倫理的責務でもある。

本書は、井出明、加藤有子、山下耕平ら科研メンバーに加え、日本とポーランドをはじめとする哲学、社会学、政治学、芸術学など多分野の研究者や芸術家が集い、議論を重ねて編纂された。その制作過程では、世界各地から伝わる紛争やジェノサイドの痛ましい報道、社会の分断やファシズムの台頭といった不穏なニュースに日々触れる中で、現代を生きる私たちに共通する息苦しさと切迫感が強く意識された。

そのため本書は、単なる過去の記録や現状分析にとどまらず、未来に向けた批判的かつ創造的な実践への一歩を示す試みである。この不確実な時代において、本書が読者に新たな視座と希望をもたらし、暗闇の中で光を見出すための道標となることを心から願っている。

(加須屋明子)

広報委員長:原瑠璃彦
広報委員:居村匠、岡本佳子、菊間晴子、角尾宣信、堀切克洋、二宮望
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2025年2月23日 発行