国際シンポジウム「モダニズムの水平線」報告
2024年3月5日に立命館大学衣笠キャンパス平井記念図書館カンファレンスルームにおいて、国際シンポジウム「モダニズムの水平線」が立命館大学言語文化研究所主催で開催されました。本シンポジウムの目的は、モダニズム文学の研究には惑星的視野が伴わざるをえないことを、実際の研究発表によって確認すると同時に、創作と研究双方の発表の場を設けることで、その相互補完性を提示することでもありました。まず、冒頭の基調講演として渡邊英理(日本文学・大阪大学)が「連なり越えゆくものを感受する──石牟礼道子の「脱近代」」と題して、自伝的小説『椿の海の記』を中心に論じました。
第一パネル「日本文学の接続点」では、佐藤元状(英文学, 映画研究・慶應義塾大学)が「西脇順三郎とグレアム・グリーン──回帰するモダニズム、あるいはレイト・モダニズムについて」で『第三の男』が西脇の詩作に与えた影響を指摘し、Ryan Johnson(比較文学・東京大学特別研究員)は “Global Modernism and Contradictory Time in Nogami Yaeko’s ‘Yama-uba’ ” と題して野上弥生子作品に潜む同時性を論じました。澤西祐典(作家, 日本文学・龍谷大学)は「地獄変」の翻案元がピエール・ルイス作「芸術家の勝利」であること、そのテーマが変化していることを「「プロメテウス」から、芥川龍之介「地獄変」へ」にて指摘しました。
第二パネル「よみがえるポエティックス」は文学批評と創作の融合を目的として、以下の四名が作品の朗読を行いました。阪本佳郎(ルーマニア亡命文学・立命館大学特別研究員)「そよ風と熾火──現代京都西陣のヘテロトピア、コロナ災禍を経ての再会と言葉」、佐藤元状「アクアリウム」、澤西祐典「国際あなた学会」、吉田恭子(クリエイティヴライティング・立命館大学) “Dogs and Miracles”。
第三パネル「モダニズムの対位法」では、大形綾(現代思想, 比較文学・京都大学研究員)が、「ハンナ・アーレントとラルフ・エリスン──1950年代のユダヤ系知識人と黒人知識人の対立」と題して、子どもの保護と人権という観点からアーレントとエリスンの論争をふりかえり、秦邦生(英文学・東京大学)「Kazuo Ishiguro, The Unconsoled (1995)における〈普遍性〉の夢」にてもっとも幻想的イシグロ作品を論じました。また、田尻芳樹(英文学・東京大学)は、「J.M.クッツェーとJ.S.バッハ」と題して、クッツェーにバッハが及ぼした影響という観点から作家のキャリアをふりかえりました。
一日シンポジウムの締めくくりは、西成彦(比較文学・立命館大学)による基調講演「英語圏文学とポーランド人」でした。英語圏文学とポーランドという独自の接続点から、近代〜現代の英語圏文学に見られるポーランド(人)表象、ポーランドゆかりの作家を自在に論じました。
本シンポジウムに発表者・出席者として参加された方々、協力してくださった学生スタッフのみなさん、主催の立命館国際言語文化研究所の関係者の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。また、本シンポジウムは科研費課題20H01244「英語圏モダニズム文学における複数の時間性に関する包括的研究」および 19KK0010「冷戦期東アジアにおける創作教育、文学、大衆文化」の助成を受けていることを付記いたします。
(吉田恭子)