単著
声なきものの声を聴く ランシエールと解放する美学
堀之内出版
2024年3月
本書は、ジャック・ランシエールの美学・芸術思想に関する研究書である。ランシエールは2000年代後半から日本でも注目を集めるようになったが、現在に至るまでコンスタントに邦訳が出版され続けていることからもわかるように、存命中の哲学者の中では知名度・人気ともに非常に高い。彼の仕事は大きく言って政治・社会思想と美学・芸術思想に分けられるが、本邦において、この両側面は比較的バランスよく──つまりどちらかに偏りすぎることなく──紹介・研究されてきた。ただし、美学・芸術思想に関して言えば、『感性的なもののパルタージュ』を中心にした美学的テーゼこそ広く知られるようになったものの、それが他の著作群や政治・社会思想といかに関連しているかについては、これまで十分に明らかになってこなかった。本書に関して特筆すべきは、ここに果敢に切り込み目覚ましい成果をあげている点である。著者は、80年代以降隆盛を極めるようになった崇高論と対照する形でランシエール美学の総体的な独自性を浮き彫りにするのみならず、彼の著作が持つパフォーマティヴな効果まで射程に入れた議論を繰り広げる。ランシエール美学への入門としてはもちろんのこと、広く美学と政治の関係を考えるうえでも示唆に富む一冊である。
(武田宙也)