アルド・ロッシ 記憶の幾何学
片桐悠自による『アルド・ロッシ-記憶の幾何学』は、建築家アルド・ロッシを対象としたモノグラフ研究の成果であり、著者の博士論文を改稿して編纂されたものである。これまで建築家アルド・ロッシは、ポスト・モダンの文脈で理解されてきたと言ってよい。歴史的引用に基づく形態の多様な戯れ。重層する意味の多義性。私性の発露。アルド・ロッシをめぐる通俗的な理解は、1980年代のポスト・モダンの流れの中で浪費され、そしてその喧騒が過ぎ去ると共に忘却の彼方に追いやられていった。しかしそもそも、アルド・ロッシはポスト・モダンの建築家ではなかったのではないか。彼はポスト・モダンの表層的な意味の戯れとは訣別しながら、アドルフ・ロースとジュゼッペ・テラーニのモダニズムの核心を継承し、厳密な幾何学性こそが形態と意味の多義性を開いてくれるという逆説を示そうとした。彼はポスト・モダンの喧騒の中にあって、一人モダニズムの核心の内側に踏みとどまりながら、形態と意味の多義性を追求していった建築家だった。片桐による『アルド・ロッシ-記憶の幾何学』は、アルド・ロッシをポスト・モダンから救出し、モダンとポスト・モダンを相対化させながら現代に蘇らせようとしている。ピエール・ヴィットーリオ・アウレーリの絶対性の議論に近接しながら片桐は、アルド・ロッシの試みを幾何学的な全体によって開かれた絶対性へと向かうプロセスとして分析している。今後アルド・ロッシの再評価が、本書を端緒にはじまるだろう。
(後藤武)