二〇世紀の思想・文学・芸術 : 徹底討議
本書は雑誌『群像』誌上で2019〜2023年に行なわれた、書名の内容をテーマとする連続鼎談にもとづいている。先行するモデルは菅野昭正・高階秀爾・平島正郎『徹底討議 19世紀の文学・芸術』(青土社、1975年)だが、「思想」にも重点を置いた点に加え、著者たちが数十年間を同時代人として生きた世紀を対象とするがゆえに、そのアプローチもおのずと異なるものになった。
本書では、「世界内戦」としての二度の大戦、ロシア革命をはじめとする共産主義の興亡、精神分析のインパクト、アメリカの文化的覇権、映画というあらたなメディア、言語論的転回や批評理論などに関する歴史的展望に加え、1980年代の文化状況やインターネットをめぐり、リアルタイムでの著者たちの時代経験がなまなましく語られている。さらに、鼎談の連載期間中に起きたコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻といった出来事もまた、討議の内容に色濃く反映している。すなわちこれは、20世紀をめぐる歴史論であると同時に、現在と地続きの年代記(クロニクル)でもあるのだ。著者のひとりとしては、その両者間の緊張関係こそを読んでいただきたい。
舞台裏的なことを明かせば、20世紀を丸ごと語ろうとするこの討議が、本来の専門領域が西欧とロシア・東欧に限られている三人の男性のみによるものであってよいのか、その都度テーマに合わせたゲストを招くといった形式も考えられるのではないか、といった議論は著者間で事前になされた。しかし、これがそもそも巨大な主題と格闘する無謀な試みである以上、網羅的・客観的なものではけっしてありえず、むしろ、著者三人が全責任を引き受け、それぞれの歴史観をくっきりと開陳すべきだと判断した次第である。
この一種の「暴挙」が読者を触発(挑発?)し、まったく別の視角からの20世紀文化論が語られ書かれることを切望している。
(田中純)