レヴィナスを理解するために 倫理・ケア・正義
本書は、『糧 政治的身体の哲学』(萌書房、2019年)で知られるフランスの哲学者コリーヌ・ペリュションの講義をもとにしたレヴィナス入門というべき書である。ペリュションは、レヴィナスから多くの影響を受けているものの、必ずしもその専門家であるわけではなく、むしろ主たる関心は環境倫理や動物倫理にある。本書の特色の一つは、まさにレヴィナスを専門するわけではない論者によるレヴィナス入門書というところにあるだろう。元々の講義も哲学専攻ではなく、介護や医療に携わる学生たちに向けられていたということもあり、専門家の場合にはありがちな込み入った議論はできるだけ割愛されている。それでいて、初期から晩年にいたるレヴィナスの思想の要点がくまなく網羅されており、レヴィナスに関心のある読者には格好の誘いとなっている。もう一つの特徴は、ペリュション自身の関心領域である動物倫理、環境倫理やケアの問題がレヴィナスの思想とどのように交差するのかが随所に示されていることだ。動物倫理や環境倫理についてはペリュション自身のレヴィナスに対する批判的な考察が随所に散りばめられているのも、レヴィナスの議論を相対的に理解するのに役立つだろう。ケアに関する哲学的な関心はフランスでも日本でも近年とみに高まっているが、そうした関心からのレヴィナス読解という道も本書からは開けてくるだろう。
(渡名喜庸哲)