近代日本の身体統制 宝塚歌劇・東宝レヴュー・ヌード
19世紀末にパリのミュージックホールで誕生し、20世紀には大衆娯楽として世界中で大流行した、華やかなラインダンスに代表される上演ジャンルのひとつであるレヴュー。本書は1920年代から1950年代にかけて、貫戦期の日本の宝塚・東宝を中心とするレヴューの展開を、踊る女性たちの身体統制と近代化という軸から考察することで、日本社会の身体をめぐるイデオロギーに迫る。
本書が取り上げるのは、1927年に上演された日本におけるレヴューの嚆矢である宝塚少女歌劇団の『モン・パリ』、1930年代のレヴュー論争期の作品、戦時期における軍事プロパガンダとしてのレヴュー作品、戦後に「額縁ショウ」、ストリップショーとして始まり、以降日劇ミュージックホールにて展開していったヌードレヴュー、その後OSミュージックホールで上演されたヌード能など多岐にわたる。本書ではこれらの事例について、台本、プログラム、随筆、ファン雑誌、映画など豊富な資料にあたり、上演内容を精細に描写し、レヴュー演出家の言説から観客の受容まで多角的に分析する。レヴューをつくった人々が、いかなる背景のもとに、何を目指して、いかに戦略的な言説実践を通じてレヴューを規定していったのかを読み解く、スリリングな一冊である。
私は、ストリップ研究の後進という立場から、本書が戦後の連合国軍占領下におけるストリップ/ヌードレヴューの検閲の実態を解き明かしたことに最も注目した。日本国内の資料においても、たとえば1954年12月の『真相』に、1947,8年ごろにGHQの民間情報局が占領対策の一環で秘密裏にストリップの対策部を設けていたという記述がある。しかし、こうした記述のみからは、検閲の実態は掴めない。これまでに、中野正昭による軽演劇検閲の研究で、「裸ショウ」と呼ばれた黎明期のストリップが日本の警察の意向を汲んで民間情報局から自粛要請を受けていたこと、それにより興行側による自主的な倫理規定が設けられたことが日本側の資料を踏まえて指摘されているほか、デヴィッド・ジョルトナーの研究でも、アメリカ国立公文書館(NARA)に保存された占領軍側の会議録等を踏まえ、当時のエロティックな作品の検閲をめぐってGHQ内部でも対立が生じていたことが明らかにされている。
本書では、占領軍側の会議録に加え、同じくNARAに保存されている実際の検閲済み台本に書き込まれたメモを分析し、当時のストリップ、ヌードレヴューが何のため・誰のために、どのように検閲を受けたのかを明らかにしている。私もNARAに訪問したが、70年以上も昔の古びたさまざまな台本が、いくつもの箱の中に大量に詰め込まれており、閲覧はなかなか大変であった。本書は地道な調査を丹念に重ねた労作であり、レヴュー史研究、演劇学、パフォーマンス・スタディーズにはもちろんのこと、占領期研究にも大きく貢献している。
(泉沙織)