単著
モニュメント原論 思想的課題としての彫刻
青土社
2023年11月
600頁を超える本の厚みと表題に記された「原論」の文字からは想像が付かないかもしれないが、これは不特定多数の非専門家のために編まれた反モニュメントの入門書である。「彫刻をめぐって」と題された第1部と「固有の場所から」と題された第2部のルポルタージュは、各地のモニュメントの設置に関して、必ずしも記念や造形の主体の意を酌んだものではない。と言って、それが破壊や撤去の対象になることを肯んずるものでもない。なぜなら、「われわれ」が変わるためにはそのような「分断」の象徴と向き合うことから始めなければならないからである。問題の解決に向けて議論の道を開くという著者の使命感は、彼女自身が女性であり、彫刻家であることに由来しており、その気概は、「時代との共鳴」と題された第3部の展覧会評にも示されている。
本書は、2017年から2022年にかけて、ウェブサイト、新聞、雑誌の各媒体に掲載された文章の集成である。論題には重複があるものの、それは読者に再考の機会を与えるという積極的な意味を持とう。変幻自在な文体がその都度の新鮮な読書体験をもたらし、時に著者の来し方を追体験させんと迫る。石碑を模した装幀は、言うなれば、小田原のどかによる小田原のどかの記念にふさわしい意匠である。「忘れるな」という警告がそこでは二重に響いている。
(野田吉郎)