編著/共著

小田原のどか、山本浩貴(編)、吉良智子穂積利明北原恵馬定延、ほか(分担執筆)

この国(近代日本)の芸術 〈日本美術史〉を脱帝国主義化する

月曜社
2023年11月
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文化研究者・山本浩貴氏と共同編集し、月曜社から2023年11月に刊行された論集『この国(近代日本)の芸術:〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』刊行のきっかけは、飯山由貴氏の映像作品《In-Mates》の上映中止事件に端を発している。2021年に国際交流基金に、2022年に東京都人権部により上映を中止された本作をめぐり、関東大震災の朝鮮人虐殺の歴史を否定し、「人権」や「ヘイトスピーチ」を恣意的に運用する事態に直面し、これに直接的に抗議をするとともに、〈日本〉を規定する「フィクションとしての〈日本美術史〉」の批判的検証が急務と考えた。

完成した書籍は全7章構成、852ページとなった。編集人を含む20名以上の寄稿者全員に適切な報酬を支払いつつ、助成金のみに頼らない方法を探すため、出版資金を得るために寄稿者10名に協力をいただき、2022年から半年をかけて、本書と同名のオンライン連続講座を実施した。この連続講座を視聴いただいたのべ1500名以上の方には、書籍刊行までのよき伴走者になっていただいた。月曜社と検討を重ね、書籍の価格は3600円と、税込4000円以内におさめることができた。学術書を手に取る層の裾野を広げための様々な工夫を、これからも模索したい。

肝心の書籍だが、日本美術史を下支えする一国史観、天皇主義、性差別をあらためて問い直し、「ニュー・アート・ヒストリー」の限界をふまえ、母屋の周囲に別宅を増築するのではなく母屋そのものを建て直していくこと、すなわち、サブカテゴリーの林立ではなく日本美術史という本丸の構造を看破することを編集方針とした。直接的に参照したのは、史書美とフランソワーズ・リオンネットが提唱した「マイナー・トランスナショナリズム」である。論考だけなくアーティストやキュレーターのインタビューを掲載したのは、この国の美術をとりまく現在進行形の検閲の実態を明らかにするためでもあった。こうした証言の交差により、〈帝国〉のありようと、これに抗う具体的な方法を示すことを試みた。

現在本書は、日本語版の重版の作業を進めつつ、英語、コリア語での刊行を目指している。本書寄稿者らによる被差別部落と日本美術史についての新たな共同研究とともに、本書の報酬を礎とする美術作品の制作支援の公募も始まった。新たな取り組みが進むいっぽうで、刊行に際して残る悔いが多数ある。そのひとつが、アイヌ民族や在日コリアンへのヘイトスピーチが極めて深刻であるため、本書協力に際して実名を明らかにすることができなかった方がいることだ。本書刊行を、かような状況の変化を促すため投じる一石にしたいと強く思う。

(小田原のどか)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、菊間晴子、角尾宣信、堀切克洋、二宮望
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2024年6月30日 発行