翻訳

アンヌ・ユベルスフェルト(著)、中條忍(監訳)
井戸桂子、上杉未央、大出敦、学谷亮、根岸徹郎、堀切克洋、村上由美(共訳)

ポール・クローデル

水声社
2023年8月
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20世紀フランスを代表する外交官であり詩人・劇作家であるポール・クローデル(1868-1955)。本書は、彼の人生と作品を綿密にたどり、その「創造行為」の秘密を明らかにするモノグラフである。その詩情の背後にはランボーの創造性があり、マラルメの絶対的な演劇観があり、リュニエ=ポーの象徴主義的な演劇実践があり、神が創造した現実を肯定するトマス・アクィナスの『神学大全』があった。

全体は、時系列に沿って作品を概説していく評伝的な第一部と、作品をジャンル別に分類してクローデルの美学や思想を明らかにしてゆく第二部にわかれるが、おそらく日本人読者にとっていちばん馴染みが薄いのは、聖書読解にかかわる部分である。神の「言葉」である聖書に関してクローデルは、その隠喩に満ちた多義的なテクストを一編の詩作品として捉えることが「詩人として読むことの権利」であると考えていた。聖書を直解する者たちに対して、クローデルは「豊かな創意の奪回、自由な表象解釈の奪回」を要求する。それが詩や演劇の創造ともリンクしており、他方では、戦争の時代の「悪」に──あるいはそのポジとしての「愛」に──かかわる問題を基礎づけている。

本書の刊行は、神奈川近代文学館における企画展「生誕150年記念 詩人大使ポール・クローデルと日本展」や渡辺守章演出『繻子の靴』上演などの様々な文化事業を行ってきた「ポール・クローデル生誕150年記念」(2018年)の集大成という側面ももつ。日本との関わりも深い詩人ゆえにクローデルに関する著作は少なくないが、その生涯と作品を貫く思想性を簡潔に描き出している点で、今後も参照されてほしい一冊だ。

(堀切克洋)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、菊間晴子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋、二宮望
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2024年2月11日 発行