編著/共著

谷口忠大、河島茂生、井上明人(編)、原島大輔、ほか(分担執筆)

未来社会と「意味」の境界 記号創発システム論/ネオ・サイバネティクス/プラグマティズム

勁草書房
2023年8月
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近年、生成AIの躍進がめざましい。ChatGPTに代表される大規模言語モデルを基盤とした対話型AIは、これまで考えられなかったほど高度かつ広範な自然言語処理マシンを、簡単に利用可能なインターフェースで大衆化した。動画生成AIを使えば、自分の話す声や表情を素材にして多言語翻訳することもできるようになった。しかし、こうしたテクノロジーよって言語の問題がすべて解決されたわけではない。ましてや前世紀にソシュール言語学によって切り開かれた構造主義以来の言語の問い、そして文化の問いは、解決されたわけでも時代遅れにされたわけでもないのである。むしろそれらの問いは、これから生成AIが浸透するにつれ、ますます表面化するであろう。なぜならいまのAIは、それらの問いに正面から向き合ってはこなかったからであり、そのようなAIをベースにしたグローバルなコミュニケーションがこの惑星を覆うことは、かえって言語そして文化の多様性や差異を反動的に一元的に抑圧することになるからである。とくにAIは、意味を理解して言語を扱っているわけではない。あくまで無意味な記号の統計的な操作として自然言語処理タスクをこなしているだけなのである。記号と意味の問いには、言語の辞書的な意味の問題のみならず、前言語なものや欲望、生命の働きなど、意味の発生や、あるいはいわば非意味的な意味の問題もあるはずだが、それらの問いはそこでは考慮されていないのである。それはつまり、AIが発展し普及すればするほど、表象文化論の意義は失われるどころかかえってますます強まるということでもある。本書は、こうした記号と意味の問いについて、人工知能・ロボティクス(記号創発システム論)、情報学(ネオ・サイバネティクス)、哲学(プラグマティズム)に関心を寄せる論者たちが集まり、討議を重ねた成果である。本書の試みが、この問いに表象文化論から取り組む人々にとって一助となるなら、著者の一人としてこれほどうれしいことはない。

(原島大輔)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、菊間晴子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋、二宮望
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2024年2月11日 発行