医学が子どもを見出すとき 孤児、貧困児、施設児と医学をめぐる子ども史
医の世界は12世紀のホスピタルですでに子どもを見出している。そこでの実践は信徒への指導や管理と結びついていた。そう最初に指摘したうえで、本書はそこに直結しない、近代に成立した「科学や啓蒙をもって救われるべき子ども」という強力な「物語」を離れて、「逸脱児」をめぐる「医の世界と子どもとの出会い方の多様性、多層性」を示そうとする。
同じふたりの編者による『孤児と救済のエポック』(勁草書房、2019年)は、「救済」をめぐって「子どもや家族についてのある価値観が普遍であり、真理であるとされるようになってきた幾つもの線やその絡まりとしての網の目」を解きほぐすべく、「十六〜二〇世紀にみる子ども・家族規範の多層性」を示すものだった。
それに続く本書は、「救済」の「物語」の立役者である「医学」をめぐる「物語」――子どもの生命や健康をめぐる発展史としてのそれとも、医学の権力性を批判し前近代の医学知を称えるそれからも距離をとり、前作から一貫する「各々の章に置かれた事象の固有性、特有性」を重んじ、「残された史料から、子どもと家族についての新しい価値観の要素と、それが生み出されていく論理と文脈を丁寧にひとつひとつ追う」という態度で、18世紀から21世紀初頭におよぶ10の事象を、アメリカ、イギリス、日本、ドイツ、植民地朝鮮にわたって提示する。史料に語らせようとする意志は、読者が「それで?」と言いたくなる瞬間も招きうるが、図式化への抵抗に裏打ちされている。
(松本由起子)