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Around Kore-eda: An International Conference

報告:佐藤元状

Date: 18 June 2023
Venue: Symposium Space, Raiosha, Hiyoshi Campus, Keio University
KAKEN: 20H01244

Speaker: Motonori Sato (Keio University), D. A. Miller (The University of California, Berkeley), Hironori Itoh (Kumamoto University), Fiona Y.W. Law (The University of Hong Kong), Shiori Okawa (Documentary Filmmaker), Ru-shou Robert Chen (National Chengchi University, Taiwan), Ryohei Tomizuka (Kanagawa University), Kosuke Fujiki (Okayama University of Science), Christophe Thouny (Ritsumeikan University), Aaron Gerow (Yale University)


2023年6月18日に慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎シンポジウムスペースにて、本シンポジウムを開催した。対面のみの国際シンポジウムを行うのは、久しぶりのことであり、志を同じくする仲間たちとの再会を記念するイヴェントともなった。

本シンポジウムの趣旨としては、是枝裕和監督の仕事を学術的に検証してみたい、という強い思いがあった。国際的な名声、そして商業的な意味での成功とは裏腹に、是枝監督の作品に対する映画研究もしくは映画批評の側からの国内的な評価は、まだきちんと定まっていないのではないか、と。今回、国際シンポジウムというフォーマットで、日本のみならず、アメリカ、カナダ、マーシャル諸島、沖縄、香港、台湾といった環太平洋のさまざまな地域と深い関係のある研究者およびドキュメンタリー作家を一堂に集め、グローバルな視野から是枝映画を検証することにしたのは、そうした国内の批評的な空白を埋めるためであった。実際、こうした総合的な試みは、大きな成果をもたらすように思われた。

以下、本シンポジウムの研究発表の内容について簡単に紹介していきたい。3つの基調講演と2つのパネル(7つの研究発表)からなるプログラムであるが、まずはパネルから紹介していく。

午前中のパネルは、伊藤弘了(熊本大学)、フィオナ・ロー(香港大学)、大川史織(ドキュメンタリー作家)の3名の発表から構成される。伊藤は是枝映画の「家族ゲーム」について、ローは是枝映画の「老いの詩学」について、大川は是枝のドキュメンタリー作品の歴史的な射程について、それぞれ検証を行った。

また午後のパネルは、冨塚亮平(神奈川大学)、藤城孝輔(岡山理科大学)、クリストフ・トゥニィ(立命館大学)、佐藤の4名の発表から成り立つ。冨塚が演劇経験のない子役の演出がどのような効果を生み出しているのかを『奇跡』を中心に考察するのに対して、藤城は是枝映画のなかで不可視のものとされていく沖縄の表象を『そして父になる』の創作・流通過程に見出していく。そしてトゥニィが「惑星的な観点」から『空気人形』の人形表象を考察するのに対して、佐藤はブレヒト的な異化効果の観点から是枝の『万引き家族』とケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』を比較していく。

基調講演に目を向けよう。最初の基調講演はD・A・ミラー(カリフォルニア大学)の“Aruitemo, aruitemo” : Scenes of Walking in Japanese Cinema” である。この講演は「歩くこと」という主題論的な角度から三つの日本映画を取り上げ、その映画的意味を掘り下げる、実験的な考察であった。その題名からも明らかなように、中心となるのは是枝の『歩いても 歩いても』であった。ミラーの映画に対するアプローチは、日本では蓮實重彦に一番近いのではないか、と改めて考えさせられた。

二番目の基調講演はロバート・チェン(台湾・国立政治大学)の“The Evolution of Long Shot: From Hou Hsiao-hsien to Kore-eda Hirokazu” である。この講演は、アンドレ・バザンのロング・ショットをめぐる批評的考察を軸に、いかに是枝映画が、彼が敬愛する映画作家の侯孝賢の映画作品と共鳴しているのかを描き出したものである。よく知られているように、初期是枝には、侯孝賢映画と見紛うような形式的、主題的な親近性が刻印されているが、チェンの講演はまさにその両者の関係性を浮き彫りにしたものだった。

最後の基調講演は、アーロン・ジェロー(イェール大学)の“Two Houses and Two Films: Transecting Koreeda Hirokazu and Bong Joon-ho” である。この講演は、是枝の『万引き家族』とポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』を比較するものであったが、両者の間を行ったり来たりしながら、総合的な検証を積み上げていく過程で、二つの映画作品の差異のみならず、二人の映画作家の差異や、ひいては日本と韓国の間の文化的な差異にまで考察を広げていく、知的にスリリングな講演であった。この講演を聞いて、私は今回のシンポジウムを企画してよかったと、そしてこのシンポジウムを書籍化していくべきだと、強く認識した。ジェローの弁証法的な是枝論は、私たちの一日の研究発表の多様性を良い意味で包括するものに思われたからだ。

さて、以上の記述からも明らかなように、私は是枝映画を学術的に積極的に評価していくべきだと、確信を持つに至った。本シンポジウムを軸に、日本語、そして英語での論文集の刊行を今後の目標にしていく所存である。

(佐藤元状)

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広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年10月17日 発行