翻訳
アートの力 美的実在論
堀之内出版
2023年4月
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ガブリエルの新実在論を美学に応用した本。アート作品とはどのような存在であるかについて、「意味の場」の多元的実在という立場から、一般の読者に向け啓発的に論じられている。著者によれば、「アート作品はラディカルに自律した存在である」という。言い換えれば、どんな作品も、自分が何であるかをその都度自ら独自に解釈=上演する絶対者である(ただし上演の舞台として必ず人間を必要とする)ということなのだが、なぜそう言えるのかを一緒に平たく考えさせるところに、本書の醍醐味がある。著者が問題にしているのは結局のところ、既存のどんな「意味の場」とも関係し得るが、それ自体はいかなる「意味の場」にも属さないものは存在するか、という問いであるとも言え、その主張に従えば、アートとの出会いはまさにそうした実在に触れる経験にほかならないということになる。ライトな語り口の小著ながら、狭義のアート論を超えて豊かな争点を含んでいるのではないか。表題作とともに、アートと懐疑論を結びつけた著者の初期の論考を併録。シェリング研究と分析哲学を綯交ぜた哲学的出自が窺いやすい。
(大池惣太郎)