映画史の論点 映画の〈内〉と〈外〉をめぐって
本書はミネルヴァ書房から出版されている「映画学叢書」の最新刊である。「映画学叢書」はこれまで身体論、イデオロギー、テクノロジー、ジェンダーといったテーマで論集を編んできたが、本書は「映画史の論点」を主題として12本の論文を収めている。
本書は映画史のテーマを大きく映画の〈内〉と〈外〉に分けて構成している。映画の〈内〉とは、映画作品や映画同士の関係を指しており、映画の構造や語り、ジャンル論、音響面などが取り上げられている。各章の具体的なトピックとしては、群像劇映画、第一次世界大戦期のイギリス映画、ヴェトナム戦争期のアメリカ映画、黒人ホラー映画、西部劇、ヒッチコック、ジャック・タチの映画などがある。一方、映画の〈外〉に関しては、隣接領域としての歴史・文学との関係や、産業としての映画の側面を扱っている。ここで取り上げられるのは、1920年代の亡命ロシア人映画、『オズの魔法使』とアダプテーション研究、東京国際映画祭の変遷、戦後日本映画の配給・興行制度などである。
このように多岐にわたるテーマから各章で考察が繰り広げられるが、終章「映画史はいかに語られてきたか―ニュー・フィルム・ヒストリーからその先へ」では、映画史の記述がこれまでどのようになされてきたのかという、映画史自体の歴史を振り返っている。映画研究の蓄積や学際化により、映画に関する論考も多様化していく中で、映画史記述の方法論や資料のデジタル化/アクセスの問題を視野に入れた議論が、今後さらに必要となるだろう。
(仁井田千絵)