翻訳
バルトの愚かさ
水声社
2022年12月
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タイトルを見て驚かれる人もいるかもしれないが、内容は斜めからのアプローチではなく、ロラン・バルトの思索を貫く「愚かさ」を真正面から扱っており、むしろ正統派とすら言える。「知性」の側にいるバルトは、「愚かさ」から逃れられるとは少しも信じておらず、自分の「愚かさ」をどこからどのように眺めることができるのか、あるいは、「愚かさ」との適切な距離はどのように確保できるのか、という問いに取り組まざるを得なかった。それこそがまさに「知性」であり、「知性」とはいわば「愚かさ」の関数にほかならない。自己(「私」)、ステレオタイプ、身体、文学(言語)、政治、旅……いずれも数多の作家・思想家が取り組んできたテーマだが、これらのテーマを論じる際に陥る「愚かさ」に意識的だったバルトは、どんな戦略を用いたのか、そして、果たして「愚かさ」から適切な距離をとることができたのか。バルト研究者の手による研究書ではあるものの、単なるバルト論を超えて、知性や愚かさについて示唆に富んだ著作だと言える。
(桑田光平)