翻訳

エマヌエーレ・コッチャ(著)、松葉類、宇佐美達朗(訳)

メタモルフォーゼの哲学

勁草書房
2022年11月
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イタリア出身の哲学者エマヌエーレ・コッチャのフランス語で執筆された著作としては2冊目となる『メタモルフォーゼの哲学』(原著は2020年4月刊行)には、いわゆるガイア理論との近さからもわかるように、近年のエコロジー思想の盛り上がりが如実に反映されている。ただしそれは「地球に優しく」だとか「自然環境を守ろう」といったスローガンをたんに繰り返すものではない。ともするとこうしたスローガンに忍び込んでしまう単純な二項対立、つまり強力無比なテクノロジーを操る人間と、そのテクノロジーによって一種の資源として扱われる自然という図式を本書は解体する。あらゆる生きものが各々の技術によって他の生きものへと働きかけ、そうしてこの惑星のメタモルフォーゼを担っているという本書の見方は、自分たちを自然から切り離して環境問題を自分たちの外にある問題とみなすような態度を、あるいは環境問題への取り組みを含むSDGsの理念に対して斜に構えるような態度を、根本から問いなおすものである。人間とその技術を特別視しないコッチャの見方は、こうした自然に対するドライな態度をほぐすことで、生きとし生けるもの──この星のなかでその短い生を果たし、次々と死んでいかなければいけないものたち──の一員として自分たちを見つめなおす仕方を教えてくれる。

(宇佐美達朗)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年6月30日 発行