レペルトワールⅢ 1968(ミシェル・ビュトール評論集)
2020年以降、年に1巻ずつの予定で刊行を開始したミシェル・ビュトール(1926-2016)の評論集〈レペルトワール〉全5巻の全訳プロジェクトは、2023年1月に出たこの第3巻をもって折り返し点を迎えた。欧米文学をヴァライエティ豊かに論じた第1巻(1960年)、いわゆるヌーヴォ・ロマンの隆盛を背景に、小説原論を前半にまとめて収録した第2巻(1964年)を経て、一気に厚みを増した本巻(1968年)は、文芸評論に加えて美術評論を多数収録することにより、「レパートリー」を大幅に広げてみせる。
各巻21編という収録数に合わせて、21点の図版が掲載されているのも既刊にない特徴で、有名絵画を中心とするその選択には驚くほど「曲がない」。が、まさに誰もが知っているつもりでいた作品を一変してみせることにこそ、〈レペルトワール〉シリーズの真骨頂はある。そして、原書にはない邦訳版だけのセールスポイントとして、各訳者による詳細な注が挙げられるとすれば、今回は、とりわけクロード・モネ論とモンドリアン論に対し、論及されるすべての作品の図版を掲載した点を特筆しておきたい。白黒で印刷された小さな図版ながら、それらと照合しながら本文を読んでいただくと、目の前で絵が文字通り動き出し、実物を見に行きたくなること必定である──元より、ビュトールの論じる順番通りに、しかも一度にそれらを目にすることは、想像の中でしか不可能なのだが……
(石橋正孝)