単著

大澤慶久

高松次郎 リアリティ/アクチュアリティの美学

水声社
2023年1月

高松次郎は、戦後日本美術を代表する作家の一人である。1960年代は、読売アンデパンダン展に出品する一方、赤瀬川原平や中西夏之らとハイレッド・センターを結成して様々なイベントを行い、前衛美術の中心で活動した。1990年代から再評価が進み、回顧展が何度も開催され、ここ10年ほどは、光田由里『高松次郎 言葉ともの 日本の現代美術 1961–72』(水声社、2011年)、沢山遼・野田吉郎・桝田倫広・森啓輔『Jiro Takamatsu Critical Archive』(ユミコチバアソシエイツ、2012年)といった研究書、1964年以降の作家論を集成した論集(神山亮子・沢山遼・野田吉郎・森啓輔編『高松次郎を読む』(水声社、2014年))が刊行されるなど、高い関心を呼んできた。

本書は、こうした研究動向を踏まえつつ、1960年代末から1970年代末までの仕事、すなわち、「単体」シリーズ、「複合体」シリーズ、《題名》、文字作品(《日本語の文字》、《英語の単語》など)、《THE STORY》、「写真の写真」シリーズを対象にしている点に特徴がある。初期作品やハイレッド・センターの活動、影の絵画などに関心が集まるなか、本書が対象とする作品は、もの派やコンセプチュアル・アートの影響と見なされることもあり、正当な考察と評価が求められていた。筆者は、緻密な思考に基づく高松の文章や対談などを丁寧に紐解きつつ、「リアリティ」と「アクチュアリティ」という、高松自身も用いた対概念を軸にこれらの作品を丹念に分析して、一見シンプルに見える作品の強度と複雑さを巧みに描き出している。1960年代末から1970年代末までの高松の仕事を深く理解する上で、そして高松の思考と制作の全体を考える上でも参照されるべき優れた考察である。

(加治屋健司)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年6月30日 発行