モートン・フェルドマン 〈抽象的な音〉の冒険
ニューヨーク・スクールの一員とされる作曲家のなかで、日本において(全世界的に見ても)特に演奏され言及されることが多いのはジョン・ケージであろうが、ケージに次いで演奏されることが多いのはモートン・フェルドマンではなかろうか。そのフェルドマンについての待望といってよい日本語文献が登場した。
年代ごとに代表的な作品とそのスコアが取り上げられ、まさに著者自身が述べているように、「フェルドマン入門」としてふさわしい構成となっている。フェルドマンの作品を時系列に沿って知ることができると同時に、作曲者自身のバイオグラフィー的なエピソードや、周囲の芸術家との関わり、とりわけフィリップ・ガストンとのやりとりが丁寧に掬い上げられている。
本書と別に独立して、著者にはMuse Pressのウェブサイトで2020年から2021年にかけて発
本書をきっかけに、ケージ以外のニューヨーク・スクールの作曲家として、フェルドマンがさらなる一般的な認知を獲得することが期待されよう。しばしば絨毯に喩えられた、「表面」をもつその音楽。フェルドマンは、芸術の形式を「同定不可能なもの、あるいは、それを聴いた時「いったいこれはなんなのか?」と口をついて出てしまうようなものである」(300頁)とする。著者はこの言葉を受けて、聴き手である私たちが音楽を聴く際に、既存の音楽との類似点を探ってしまう危険性を指摘する。新鮮で真摯な耳を我々が持つためにも、今一度フェルドマンの〈抽象的な音〉を聴き直してみたくなる一冊である。