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太田光海 講演会 「変容する森と、創発としての真実──現代高地アマゾン熱帯雨林における身体知と絡まり合う自己」

報告:髙山花子

日時:2022年10月23日(日)15:00-17:00
会場:東京大学駒場キャンパスI KOMCEE East K011

コメンテーター:橋爪太作(早稲田大学)
司会:髙山花子(東京大学)

主催:東京大学東アジア藝文書院(EAA)


太田光海氏の監督した映画『カナルタ──螺旋状の夢』(2021年公開)では、アマゾンの森において、シュアール族のセバスチャンがアヤワスカをはじめとする覚醒植物を見極め採取し、みずからに取り込み夢を見るような姿と同時に、大怪我を負った際には現代医療を受ける姿がはっきりと映されていた。急速に環境破壊が進み居住そのものが脅かされる現状において、どのように人間はそれでもなおある土地に生きることができるのか――シンプルかつ鋭い問いをいくつも率直に突きつける映画のおおもとにある自身の研究について今回お話をいただいた次第である。当日の概要報告はすでに東アジア藝文書院(EAA)のウェブサイトに公開しているのでそちらをご覧いただきたいが(リンク)、あらためて振り返って特筆すべきだと思われるのは、たとえばエクアドルとペルーが1941年から1998年まで断続的な戦争状態にあり、つい十数年前に確定された国境をまたいでシュアール族のエスニシティ形成がなされつつあるというような、政治的・歴史的事象が21世紀に入ってもなおフィールドワークをする当人に否応なしに影響をあたえた葛藤の経験が語られていたことである。そうしたなかでマルチサイトリサーチの探求や、身体性の自覚がどのように見出されたのか、ひとつの学術的な結実がなされるまでのプロセスが凝縮して語られていた。ほかにも、ブルトンのシュルレアリスム宣言の出された数年後、アンリ・ミショーのエクアドル旅行記において、アマゾン内部ではアマゾンの実体が先住民たちにとっても捉えられないことがすでに示されていたコンテクストが紹介されたように、映像人類学と近年呼ばれる学問領域にまったくかぎられない問いがここから新しくひろがる予感があった。ディスカッサントの橋爪太作氏がフィールドとするメラネシアのソロモン諸島も、植民の歴史やキリスト教受容をはじめ異なる側面は多いと思われたが、森林伐採や焼畑農業によって森そのものの消失が起こりつつある土地であった。基本的にわたしたちには森がなくなる未来しか残されていない。そのようなリアルを直視し語る言葉がいまこそ求められながら、そのような言葉を紡ぎ出すことは一筋縄ではいかない。話者数の極端に少ない現地語を習得した経験に裏打ちされた二人の応酬からは、言葉では書き記されない、あるいは語りきれない次元があることが素朴に思われた。言葉なしで思考すること、学問することは可能なのだろうかという問いが、映像の可能性とともに提示された時間でもあったと思う。

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、髙山花子、福田安佐子、堀切克洋、角尾宣信、居村匠
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年2月22日 発行