ワークショップ2 組積研WS ブロック玩具で探究する「都市の建築」の表象
日時:2022年11月12日(土)10:00- 12:00
発表者:
谷田部僚太(東京都市大学)
高橋尚弥(東京都市大学)
柏崎健汰(東京都市大学)
司会:片桐悠自(東京都市大学)
コメンテーター:小見山陽介(京都大学)
本ワークショップ(以下WSと表記)では、ブロック玩具(レゴ®ブロック)を用いた制作を行った。WSの目的は、具体的には、「都市の建築」をキータームに、言語表象から小型の模型を制作し、「アブストラクト・アーキテクチャー」(以下AAと表記)概念の具体的な相貌を浮かび上がらせることである。参加者は、以下の2つの制作を通じて、建築を抽象化した小型の立体ブロック模型を作成し、参加者同士での意見交換ののち、自らの造形意図を記述することで、個人が持つ造形イメージ(=潜在的な認識)を他者と共有する。
1.あなたのイメージするビル群や一般住宅を抽象化して、ブロック玩具を使い立体で表してください。またどこに重点を置いたか等文章で補足してください。さらに、制作後、他の参加者の意見交換を通じて、気づいたことを記述してください。
2.自邸のイメージを同じブロック玩具で抽象化し、できた作品を文章で説明してください。特に何を重視したのかを書き出してください。さらに、制作後、他の参加者の意見交換を通じて、気づいたことを記述してください。
まず、冒頭20分ほどで、組積研ゼミの活動内容を紹介する形で、登壇者による導入説明が行われた(Fig.1)。まず、司会(報告者)より、AA概念の導入説明があった。
AAは、登壇予定者らが2021年より行ってきた自主ゼミナール「組積研」として、検討している仮説である。いわば、建築の認知における“三次元のシェマ[1]”であり、集団で共有されるイメージもあれば、個人によって大きく異なるイメージが付帯することも考えられる。先行する東京都市大学建築学科1年生向けのWS(Fig.2)を踏まえ、AAはフィックスされた概念というよりもむしろ、揺れ動くイメージとしての側面を重視しており、手のひらサイズのブロック玩具模型という “低解像度”の模型によって表象されるとの仮説を提示した(Fig.3)。
[1] 建築理論のターム「シェマ」は、建築の認知における基礎的な図式であり、「ダブルサークル」「宮殿形式」といった初源的な図式の表象の基本単元である。Ch.ノルベルグ=シュルツ (Christian Norberg-Schulz, 1926-2000)の『実存・空間・建築』(原題 Existence, Space and Architecture, 1971, 加藤邦男訳, 鹿島出版会, 1987)を参照。また、この議論を受けて、岸田省吾が『建築意匠論』(丸善, 2012)でシェマ概念を詳述しており、本WSの理論的背景を形づくっている。
次に髙橋尚弥氏・柏﨑健汰氏による「建築教育における模型という問題系」では日本の建築設計教育における”模型神話”についての問題提起がなされた。日本の建築教育における“模型神話”、ポリスチレン材料を多用した模型を大量に制作するという風潮は、コストや環境負荷という側面から非常に不合理である。本来設計の質やプロセスの方が重要であり、模型の必要性や再利用可能なスタディ模型のマチエールの可能性が論じられた。
冒頭説明の終わりと制作WSの説明として、谷田部僚太氏が「ブロック玩具を用いた '都市の建築 'の可能性」を論じた。モダニズム建築の登場以後、都市の模型は精密なスケールによって再現されてきた一方で、近代以前の模型がノンスケールであることを踏まえ、谷田部氏は、制作論的な概念としてAAを関連づける。各々の'都市の建築'について、個人が想定するスケールは、それぞれイメージされる都市の姿、建築の姿が、簡易なブロック玩具モデルの制作によって表象されるのではないかという仮説のもと、ワークショップの説明を行った。
冒頭説明の後、製作15分+意見交換20分+記述10分(記述は各100-300字程度)の一回45分のワークショップを同一参加者で2回行った。
WS時には、「組積研」で準備したブロック玩具を用いて製作を行った。ブロック玩具は8×8プレートパーツ(縦横のグリッドは同じだが、高さはブロックパーツの1/3で統一された薄型のブロック)を土台として、制作用のブロックパーツならびにプレートパーツを机上に用意した。WS参加者は、参加希望者5名に加え、登壇者5名も参加している。また、非日本語話者の意見交換については、司会が逐次通訳を行った。
1セット目の都市のイメージの制作では、特徴がグループ化できるのでないかという意見があった。参加者の小林卓哉氏によるとレゴブロックを使った抽象化については、三種類の傾向があるという。a)特定の都市一つをモデルとして抽象化すること、b)ある地域の複数の都市をモデルの特徴を抽出し、タイポロジカルに抽象化すること、c)特定の都市をモデルとはしないような自身の都市イメージそれ自体を起点として抽象化すること、の3つの抽象化の傾向性であるという。例えば、a)は小林氏や組積研の制作物、b)はコメンテーターの小見山氏による新幹線のある中核都市のタイポロジー表現、c)は一般参加者のLynda ITATAHINE氏、Ouassila Louiza ITATAHINE氏、居村匠氏の制作物が挙げられる。アルジェリアから京都大学大学院建築学専攻に留学しているLynda氏は、1セット目で「風環境を考慮した稠密都市」をテーマに、高層ビルを都市グリッドの対角線上に配置したモデルを制作し、既存の稠密化した高層ビル群に対するオルタナティヴを提案した。
2セット目の住宅イメージの制作では、参加者のごとの違いが顕著に現れた。Lynda 氏は、「風環境を考慮した集合住宅」をテーマに制作を行い、マイクロモデルの中に建物内通気孔や街路が表現されることで、通風を考慮したという点で1セット目の制作物と関連付けられるものであった。また、Ouassila Louiza氏は、左右対称の住宅のファサードを制作し、さらに通風を考慮した健康住宅を意図して制作を行った。さらに、居村氏は、当初戸建て住宅を想定しながら制作していたが、進めてくるうちに集合住宅に見えてきたというコメントを残している。意見交換では、小林氏が作成したソーラーパネルのついた家に関して、環境建築に興味を抱くLynda氏からその表象の意図についての質問があった。これを承けて小林氏は,自身の制作したモデルにおける屋根が可動する仕組みを示した。
WSの最後に、コメンテーターの小見山陽介氏による総括が行われた。小見山氏の総括コメントは、以下の3点に要約される。
①まず、ブロック玩具などマチエールを制限することそれ自体に可能性があるのではないかということが述べられた。小見山氏の出身校である東京大学建築学科においては、かつて卒業設計で提出できる模型の大きさに制限があり、そのレギュレーションが敷地選定や建物規模を考える際の一つの手掛かりになっていたのではないかという。その際の大きさ制限と似て、本WSの小型のブロック玩具という制限が、内発的ではない発想へと至るポジティブなきっかけをもたらしうるのではないかという指摘があった。
②次に、ブロック玩具自体の解像度だけでなく、どんな種類のブロック玩具に慣れ親しんでいるかによって個人ごとの思考の解像度が存在するのではないかという指摘があった。例えば、小見山氏にとっては、幼少の頃に親しんでいたダイヤブロックや学研ニューブロックであれば直感的に組み立てられるが、子育ての過程で触れ始めたばかりのレゴブロックでは、頭に思い描くものがうまく作れないように感じるという。ブロック玩具それ自体の解像度は様々であることから、自分が慣れ親しんでいない解像度のブロック玩具に触れることで、その不自由感が逆に異なる設計の発想を得るためのきっかけともなりうるのではないかという指摘があった。
③最後に、建築設計におけるスタディの可能性については、自身の実施を前提とした建築作品におけるスタディの可能性が述べられた。「大人はボリュームで考えて、子供は体験で考えて、レゴをしている」と述べる小見山氏は、現在自身の子息ととともに、レゴブロックを使った建築のエスキースを行っていると総括を行った。
研究者・社会人・学生が共同しながら、個々人がイメージする“都市の建築”のブロック玩具モデルをスタディすることで、AAという“低解像度の建築”の表象が、個人と集団の記憶を交換しながら、それ自体の建築表象が変容する過程が浮き彫りになったといえるだろう。
(図版提供:組積研)
ワークショップ概要
本ワークショップ(以下WSと表記)は、ブロック玩具(レゴ®ブロック)を用いた制作ワークショップを行う。まず、建築を抽象化した小型の立体ブロック模型を作成する。そして、参加者同士での意見交換ののち、自らの造形意図を記述することで、個人が持つ造形イメージ(=潜在的な認識)を他者と共有する。
具体的には、「都市の建築」をモチーフとして、以下のような2回の連続したワークショップを行う(各回45分程度)。
1.あなたのイメージするビル群や一般住宅を抽象化して、ブロック玩具を使い立体で表してください。またどこに重点を置いたか等文章で補足してください。さらに、制作後、他の参加者の意見交換を通じて、気づいたことを記述してください。
2.自邸のイメージを同じブロック玩具で抽象化し、できた作品を文章で説明してください。特に何を重視したのかを書き出してください。さらに、制作後、他の参加者の意見交換を通じて、気づいたことを記述してください。
本WSの目的は、最初から言語表象として抽象化された建築から要素を抽出し、「アブストラクト・アーキテクチャー」(以下AAと表記)概念の具体的な相貌が浮かび上がることを期待したい。AAは、登壇予定者らが2021年より行ってきた自主ゼミナール「組積研」として、検討している仮説である。いわば、建築の認知における“三次元のシェマ”であり、集団で共有されるイメージもあれば、個人によって大きく異なるイメージが付帯することも考えられる。
流れとしては、まず、登壇予定者による冒頭での話題提供+内容説明(15分)を行う。
内容としては以下を予定している。
・「アブストラクト・アーキテクチャー」(片桐, 3分, 冒頭説明)
・「建築教育における模型という問題系」(高橋+柏崎, 5分, 話題提供)
・「ブロック玩具を用いた“都市の建築”の可能性」(谷田部, 10分, WS説明)