消費は何を変えるのか 環境主義と政治主義を越えて
消費、または消費については、いまなおさかんに語られている。「アートと消費」、「消費と政治」などなど。しかし消費が何であるかについては、かならずしもあきらかにされていない。きちんと読まれることのないままにボードリヤールの議論がそのまま利用されたり、あるいは逆に鼻で笑われたりするだけなのである。
そうではなく、もう一度、消費を通して私たちが日々何をなし、またその延長線上で社会にいかなる変化を生んでいるのかを具体的に調べていく必要があるだろう。著者ダニエル・ミラーによれば、その成果として浮かび上がるのは、消費を通して私たちは他者に愛情を示したり、自己が何であるのか(または何でないのか)を表現したりしているということである。それゆえ消費を操作することはむずかしい。それは生活のなかにかなり根深く埋め込まれており、だからこそたとえば倫理的な消費を促すことで、すぐに環境保護が実現されるなどとは望んではならないとミラーは言うのである。
ではどうすればよいのか。ミラーが主張するのは、消費ではなくむしろ生産に対するグローバルな規制の強化という道である。それは法を司る国家の力を強化する恐れがあるという意味で、望ましい道かどうかは訳者にはわからないが、いずにしてもミラーは消費が何であり、そしてそれとどうやって向き合っていけばよいのかについて、ボードリヤール以後もっとも本質的な問いを突きつけているのである。
(貞包英之)