『村上春樹 映画の旅』
本書は、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館で開催された2022年度秋季企画展「村上春樹 映画の旅」の公式図録である。展示では、小説家・村上春樹がこれまで見てきたさまざまな映画から彼自身の小説を映像化した作品に至るまでを取り上げ、村上が映画と結んできた関係を<旅>に見立てて振り返った。図録の巻頭を飾るのは村上本人による展示へのメッセージと書き下ろしエッセイであり、それらの文章では映画が彼の創作にもたらしたものの一端が開示されている。
前半は展示資料の一部をキャプション付きで紹介する[図版]編、後半は映画、文学、演劇等々の領域を専門とする研究者たちによる論考と、村上の小説を映画化したイ・チャンドン監督と濱口竜介監督のインタビューを収録した[論考・インタビュー]編である。巻末には「村上春樹著作登場映画リスト」などを収めた[資料]編もある。村上の著作には古典的なハリウッド映画からヨーロッパの芸術映画まで実に多様な作品が登場するが、まずはその物理的な量の多さに驚いていただきたいと願ってリストを作成した。
文学と映画の関係については、アダプテーション論などにおいて盛んに論じられてきたテーマであり、本書も村上春樹という一人の作家を通してこの関係を掘り下げて考察することを目指した。映画は村上の創作にどのような影響を与えたのか、村上の小説は映画化されるにあたっていかなる可能性を監督たちに見せてきたのか。これらの刺激的な問いへの応答を本書に見出していただければ幸いである。
(川﨑佳哉)