編著/共著
ミシェル・アンリ読本
法政大学出版局
2022年9月
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本書は、フランス現代の哲学者ミシェル・アンリの哲学や文学の全体像を紹介した書物である。読者のなかには、カンディンスキーの抽象画について論じた『見えないものを見る』の著者としてアンリをご存知の方もいるかもしれない。
アンリの思想は、外部性や超越を徹底的に排し、内面的生・自己性・感情を人間理解の中心に据える姿勢において、現代思想のなかでも異彩を放つが、本書は、そうしたアンリの思想をあくまで客観的に評価しようとする姿勢で貫かれている。
特に注目すべきは第Ⅱ部である。アンリは、みずからの哲学的立場から西洋哲学史を独自に読解するが、第Ⅱ部には、アンリの目を通して西洋哲学史を捉えるとともに、西洋哲学史の観点からアンリの思想を相対化しようとする意欲的な論考が集められている。
また、アンリは、哲学者としてのみならず、作家としても活躍し、四本の小説を残したが、本書はこれまでほぼ紹介されることのなかったアンリの小説や、作家としてのアンリに焦点を当てている点でも注目に値する。
その他、アンリの生涯と思想の概要、その哲学の主要テーマ、さらには、アンリと多くの現代の思想家たちとのスリリングな出会いとすれ違いなどが紹介されており、いずれも読みごたえのある論考ばかりである。アンリをめぐる諸問題を視野に収めたいと考える読者には格好の入門書だと言えよう。
(川瀬雅也)