文学・哲学・感染症 私たちがコロナ禍で考えたこと
新型コロナウイルスを主題とする各種出版があふれんばかりに相次ぐなか、昨年9月に刊行された本書の特徴は、2020年4月22日、2020年8月26日、2020年12月26日に開催された3つのオンラインワークショップ記録集だということにある。たとえば会員の國分功一郎氏が「新型コロナウイルスと哲学者たち」という演題で参加している第1部「感染症の哲学」では、コロナ以前からの各種制度疲労や「神話化された科学主義」の問題、格差の激しい中国においてスマートフォンやインターネット環境すらない人々にウイルスがもたらした異質な共同性の考察がナンシーやアガンベンの議論の再検討とともに率直に行われ、そのディスカッションの記録も残っている点において、Zoomでどのような言葉が交わされたのか、交わされえたのか、規制が大幅に緩和されつつある現況と照らしながら振り返る意義は少なくないだろう。第2部「感染症──歴史と物語のあいだで」には可視化される「生権力」概念とともに「トランス・サイエンス」や「リスク社会」概念を再検討する野家啓一氏の寄稿もある。第3部「感染症と文学」は唯一東アジア藝文書院のウェブサイトで詳細な記録が見られないもので、『源氏物語』や『方丈記』といった日本古典文学、ブランショの『至高者』、それからマンガ、文芸誌でのコロナ文学について考察した論文5本が収録されている。
(髙山花子)