愛知県芸術劇場 ダンス・スコーレ特別講座シンポジウム 「身体のブリコラージュ──アヴァンギャルドは〈他者〉の身体をいかに引用したか」
愛知県芸術劇場 ダンス・スコーレ特別講座シンポジウム
「身体のブリコラージュ──アヴァンギャルドは〈他者〉の身体をいかに引用したか」
報告:山口庸子
日時:2022年3月19日(土) 13:00〜17:00
場所:愛知芸術文化センター アートスペースA (12階)
主催:科研B研究グループ「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」(科研・基盤B:19H01244、研究代表者:西岡あかね)、科研「身体と『モノ』から見たドイツ語圏芸術人形劇の総合的研究」(科研・基盤C: 20K00148 研究代表者:山口庸子)、愛知県芸術劇場
共催: 東京外国語大学総合文化研究所、名古屋大学大学院人文学研究科
発表者:前田和泉(東京外国語大学)、小久保真理江(東京外国語大学)、小松原由理(上智大学)、山口庸子(名古屋大学)、李旎(名古屋大学大学院)
司会:西岡あかね(東京外国語大学)
コメンテーター:唐津絵理(愛知県芸術劇場)
20世紀初頭のヨーロッパにおける歴史的アヴァンギャルドは、行き詰まりを見せた西欧社会を変革すべき「新しい人間」のイメージを様々に志向した。その際、アヴァンギャルドの芸術家たちは、前近代や非西欧など、西欧近代から見た〈他者〉のイメージをブリコラージュした。即ち、西欧近代にとっての様々な〈他者〉表象を寄せ集めつなぎ合わせて、そこから新しい人間のイメージを創造していったのである。
本シンポジウムは、好評であった昨年度に引き続き、愛知県芸術劇場の学芸員である唐津絵理氏の参加を得て、愛知県芸術劇場との並び主催とし、芸術劇場が企画・運営する「ダンス・スコーレ」と連携して、その「特別講座」という位置づけで開催した。
冒頭で、唐津氏と西岡あかね氏が挨拶と趣旨説明を行い、本シンポジウム開催の経緯、「ブリコラージュ」の意味、および歴史的アヴァンギャルドにおける「新しい人間」と〈他者〉の身体の関係についての説明がなされた。またロシアによるウクライナ侵攻という状況を踏まえて、暴力の停止および表現の自由と人権の尊重が訴えられた。
発表では、まず前田和泉氏が、「ロシア・アヴァンギャルドの〈働く女〉―ゴンチャローワ、マレーヴィチから全体主義へ―」として、身体性が明瞭に現れる「働く女」のイメージの変化を、19世紀の農村画から、プリミティヴィズム、構成主義、社会的リアリズム、全体主義の絵画まで幅広く論じた。小久保真理江氏は、「イタリア未来派にとってのアフリカ」で、エジプト生まれのマリネッティの作品におけるアフリカ表象が、プリミティヴィズム、機械的身体、植民地主義、アフリカ主義などと関連する複雑な様相を明らかにした。小松原由里氏は「〈他者〉を夢見る舞台―20世紀前半のヨーロッパ・キャバレー芸術と異文化表象」で、キャバレーで上演されたシャンソン、人形劇、音声詩などを分析し、様々な〈他者〉の身体表象のハイブリッドとしての「自己」が、西洋的でありつつ、西洋の虚構性の呈示でもあることを示した。山口の「モダンダンスと芸術人形劇における〈他者〉の引用」、は、モダンダンスと芸術人形劇が、ともに20世紀初頭の西欧社会にとっての「別の身体」を提示していることを指摘し、クレイグ、トイバー=アルプ、テシュナーの人形劇と異文化の身体について論じた。「日本社会におけるベリー・ダンスの受容と表象」で博士号を得たばかりの李旎氏の発表「明治・大正時代を生きた女性たちのサロメ・ダンス」は、世紀転換期の西欧で生まれたサロメ・ダンスの日本におけるジャンル横断的な受容を、松井須磨子、川上貞奴、松旭斎天勝、高木徳子を例に論じた。
コメンテーターの唐津氏からは、ヨーロッパとアメリカのアヴァンギャルドにおけるオリジナルな身体の不在、日本におけるバレエとモダンダンスの移入と西欧との関係、などについての指摘や質問がなされた。特に、異文化からのインスピレーションとその盗用との境界についての唐津氏の指摘は、西岡氏の司会によるその後の討論で繰り返し参照された。フロアからは、プリミティヴィズムと女性身体や全体主義との関係、キャバレーや芸術人形劇の客層、「完全な身体」のイメージなどについて多くの質問があり、活発な討論が行われた。
2023年3月18日(土)には、再び愛知県芸術劇場と協同でシンポジウム『ダンスと人形-アヴァンギャルドはモノと動きをどのように捉えていたか』を開催予定である。今後もイベントを企画していく予定なので、関心のある方は、以下のホームページを訪問して下されば幸いである。「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」http://www.tufs.ac.jp/ag/
(山口庸子)