シネアスト高畑勲 アニメの現代性
博士論文『アニメの場面演出術と映画術──東映動画からジブリまで(一九六八一八八年) 高畑勲と宮崎駿によるリアリズム派』をもとに、ステファヌ・ルルーはフランスで二〇一〇年『シネアスト高畑勲』を、翌年『シネアスト宮崎駿』を刊行した。翻訳の順序が逆になってしまったことをお詫びしたい。ちなみに本書は、単著の単行本としては世界最初の高畑勲論と思われる。
特筆されているのは、長編第一作『太陽の王子 ホルスの大冒険』(一九六八年)の「現代性【ルビ:モデルニテ】」である。一九三〇年代後期以降、ディズニー・スタジオの長編はアニメーション界においてモデルとして君臨しつづけた。その世界はひたすら主人公を中心とした見世物として組織され、観客はそれを全知の遍在者のように享受する。こうした「古典主義」に対抗して高畑は、ポール・グリモー、ジャン・ルノワール、ヴィットリオ・デ・シーカ、溝口健二などから影響を受けながら、世界を断片的、重層的、多元的、多義的なかたちで呈示し、アニメーションの別の道を拓いた。それに貢献した画面の奥行き、自発的なフレームイン、唐突なイントロダクション、欠落のある移行部などを、ルルーは非常に緻密に分析している。
その後の高畑の仕事についての議論が最終章の第五章に集約されているのは、確かに不均衡ではあるが、『シネアスト宮崎駿』で宮崎との比較を通して補完されていよう。
(岡村民夫)