翻訳

岡田温司、中村魁(訳)ジョルジョ・アガンベン(著)

創造とアナーキー 資本主義宗教の時代における作品

月曜社
2022年5月
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哲学者ジョルジョ・アガンベンに固有の身振り。それはまずもって、諸学問分野を横断していて、それらのあいだで振動している特異な概念に着目することであり、さらには、そのような概念をつきつめて考察していくことによって、分野の明確な区分には収まらない未知の領野を描きだすことにある。二〇一二年一〇月から翌年の四月までにおこなわれた五回の講演をもとにした本書『創造とアナーキー』は、そうした彼の手つきを平易な文体によって直截に呈示している。この意味で、本書は「アガンベンによるアガンベン入門」とでも呼びうる一冊である。

本書は全五章から成る。第一章と第二章は、アガンベン思想の核にある現勢態(エネルゲイア)と潜勢力(デュナミス)の問題を、「作品」や「創造行為」といった芸術ないし美学的な観点から出発して論じる。第三章はフランチェスコ会士たちの修道生活を特徴づける貧しさ(清貧)と、動物は「世界が貧しい」というハイデガーの有名なテーゼを結びつけて考察するスリリングな箇所となっている。第四章は、事実確認的な命題的言表と行為遂行的な命令にはそれぞれ異なった存在論が対応するという主張を軸に、言語と存在の絡まりあいを捉えようと試みる。第五章は、資本主義社会を支える「信用(クレジット)」の概念が、実のところキリスト教から寄生的に生じてきたことを跡づけるという、アガンベンに特有のアナクロニズムが遺憾なく発揮された章となっている。

このように本書は、存在論に美学や言語学、神学や経済学といった学問諸分野が互いに交差しあうアガンベン思想の広がりを体験させてくれる。紙幅の都合上、やや考察が尻すぼみとなっている部分もあるものの、それによってむしろ、彼によって指示された地点から出発して自ら思考の歩みを進めてみようと思わされる、知的喚起力に富んだ一冊となっている。

(中村

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年10月23日 発行