単著

岡田温司

ネオレアリズモ イタリアの戦後と映画

みすず書房
2022年5月

『映画は絵画のように』(2016)、『映画とキリスト』(2017)、『映画と黙示録』(2019)に続く著者の映画論である。アンドレ・バザンとジル・ドゥルーズによる診断を導きの糸としつつ、「実在的で存在論的な」理論の次元から文化的・社会的次元にまで襞を押し広げるようにして、イタリア発の「新しいリアリズム」が多角的に論じられる。議論の対象となるフィルムの数はゆうに200を超えるが、それらのうち印象深いシークエンスが複数回、しかもそれぞれ異なる観点から論及されるため、考察の展開そのものがあたかも秀逸なフラッシュバックのようである。とはいえ、本書の屋台骨を支えるのは、美術研究の領域で著者が長年培ってきた作品描写とその分析の巧みさである。ネオレアリズモと評される作品群をそれなりに鑑賞してきた評者でも未見の作品が数多く登場するが、著者のエクフラシスは、観たことのないそれらの名場面を的確に読者に送り届けてくれる。

意外なことかもしれないが、ネオレアリズモに関する日本語の書物が世に送り出されたのはこれが初めてだろう。しかも、往年の映画ファンにありがちな、傑作ないしは巨匠たちへのノスタルジーは微塵も感じられず、近年のイタリア国内外の映画研究や、隣接する領域の研究成果が論述のなかに配されていている。その手際の良さもまた本書の醍醐味のひとつである。著者でさえもリアルタイムで体験していない映画たちが放つ魅力を(特に若い読み手に)堪能してもらいたい。

(鯖江秀樹)

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年10月23日 発行