内田祥哉は語る
本書は建築学者・建築家内田祥哉(1925-2021)への19回に及ぶインタビューの記録である。内田は、建築家としては寡作ゆえ建築を専門としない向きにはマイナーな人物と思われるかもしれない。しかし彼は終戦時の東大総長を務めた内田祥三を父にもち、戦後すぐに旧逓信省に入省し将来を嘱望された建築家であり、大学に転じたのちも学務のあいまに設計活動を続け、佐賀県立図書館・博物館などすばらしい建物をいくつも実現した。日本の近代建築においてひとつの極をなした「逓信建築」の系譜に連なり、また堀口捨己や前川國男の薫陶を受けた、いわばモダニズムの正統なる末子、それが内田祥哉だ。また研究者としては、建物を構成する方法の理論化をめざして「建築構法」という新しい学問分野を起こし、やがて建築生産全般を対象とした研究へと展開していく。その影響力は大きく原広司や隈研吾といった建築家だけでなく、広く建築界で活躍する多くの後進を輩出した。
本書は、内田祥哉という創作と学術の両方で活躍した人物の証言を通じて、戦後の日本建築史にあらたな展望を開こうとするものである。全12章は時系列に並べられ、それぞれに執拗に註を付し、各章に対応した編者二人のテキストを挿入した。巻末には現時点でもっとも網羅的な内田祥哉の作品リストを解説とともに掲載している。生い立ちから近年の木造建築への関心まで、とにかく根掘り葉掘り聞いた。そして内田は韜晦するところなく率直に、飄々と語ってくれた。内田の語りには独特の調子があった。テキスト化に際しては、それを崩さぬよう努めた。内田の声で語られる歴史は、丹下健三からメタボリズム、そしてポストモダンへと書き継がれてきた歴史でもなければ、たんなる建設技術の発達史でもない。だからといって「オルタナティブ」というのでもない。半世紀以上にわたる内田の思考と実践の軌跡を辿ることで読者が触れるのは日本建築の基層なのだ。
(戸田穣)