クィア・スタディーズをひらく2 結婚、家族、労働
三巻からなる論考集の第二巻となる本書は、結婚、家族、労働をテーマとする。とはいえ、国勢調査を論じる第一章が浮かび上がらせるのは、調査の視線の持つ規範化の作用との交渉を試みるクィアなカップルの戦略であるし、第二章は新自由主義体制下での異質な身体の統制を扱う。第六章は天皇制の象徴する現代日本の規範的身体の対極にレズビアン存在を位置付ける。明確に「結婚」を扱う第三、四章や「家族」を論じる最終章と異なり、これらはいずれも明示されたテーマとは少しずれるように見えるかもしれない。性と身体の管理・統制に関するこれらの議論がクィア・スタディーズの問題系においては「結婚、家族、労働」の問題と地続きであると了解するには、J.バトラーとN.フレイザーとの「文化」論争を振り返りつつ婚姻制度を批判的に検証する第五章が補助線となるだろう。本書にはまた、台湾のクィア研究の歩みから性労働、さらにはコミュニティにおける性暴力まで、幅広いテーマを扱う5本の短いコラムも収められている。対象も論点も多岐にわたる、しかし主に国家や資本による統制が論じられる各章の議論に対し、これらのコラムが地域やコミュニティといったさらに異なる視点を提示することで、日本のクィア・スタディーズが現時点で直面する「最も困難で、重要な問い」の複雑さと多面性をそのままに共有したいとする本書の企図は、成功しているのではないかと思われる。
(清水晶子)