マンガメディア文化論 フレームを越えて生きる方法
『マンガメディア文化論』は、連続シンポジウム「マンガの体験、メディアの体験」(2018-2019年)にもとづく論文集である。そのシンポジウムは、マンガというメディアの特質について、隣接するメディア文化との対照をおこないながら、検討しようとするものであった。そのため本書には、いわゆるマンガ論者のみならず、さまざまな視覚メディアの専門家、メディア論・情報論・身体論の研究者らが寄稿している。
本書は、先行する二冊の論文集の体勢をひきついでおり、それらとともにマンガ論集三部作をなしている。一冊目の『マンガを「見る」という体験』(2014年)は、近現代美術をめぐる言説とマンガ研究との接続を試みるものだった。二冊目の『マンガ視覚文化論』(2017年)では、視覚文化論の布置のうちにマンガを位置づけることがおおきな主題となった。
「近現代美術」から「視覚文化」へと広げられてきた、この三部作の議論は、本書では「メディア文化」全般へと向かっている。議論をいたずらに拡張することが目的なのではなかった。むしろ、多彩なメディア文化との境界線上でこそ、マンガとはどのようなメディアなのかという、そもそもの問いにあらためて立ちもどることができたように感じている。
マンガとはどのようなメディアなのか。このあまりにも根本的な問いにたいして、本書の(序章・終章をふくめた)16本の論文のすべてが、一様な答えかたをしているわけではまったくない。とはいえ、近代マンガの最初期から現在のデジタルマンガにいたる作品をとおして、創作の体験から受容のありかたにおよぶ調査をとおして、通常はマンガとは考えられていないような臨界的な事例をとおして、各論文がここでしめした考察は、この問いにあらたな機会をあたえているように思う。専門分化を必然的に深めていくべきマンガ研究の現在にとって、それが迂遠な好機になっていればとも願っている。
(中田健太郎)