小劇場演劇とは何か
〈小劇場演劇〉とは何か。
単に小規模な劇場で演じられる演劇、というだけでは括りきれず、小劇場から出発点した劇団が、劇場の規模を大きくしていっても、総称としては小劇場演劇と呼び習わされる。ことに演劇そのものの概念や形態が多様化、細分化している現代において、背景としての歴史も含め、小劇場演劇とは、どのようなジャンル(あるいは表現)を指すのだろうか。
本書は、小劇場演劇の歴史や表現の多様性について、舞台を取り巻く政策や批評、海外の状況も紹介しながら考察したものである。古今東西、数かぎりなく存在する小劇場演劇のなかで、本書でふれえたのは、それらのごく一端にすぎない。通史的な記述はより緻密な時代区分のもとに巨視的/微視的に論じられ、概念の変化も検討されねばなるまい。個別具体的な表現者とその作品、ハードとしての小劇場、東京以外の地域、各国の状況(と日本との比較)など、とりあげるべき対象やテーマは無数にある。1960~90年代に拡張した小劇場演劇にかんしては、同時代を伴走した批評家や研究者等による文業が多数あり、それら研究史の整理も求められる。
それでも、本書に収録した種々の論考を通して、小劇場演劇が舞台と客席との関係を問いなおし、従来なかった表現を模索する場としても機能していた諸相が見てとれるのではないか。本書が「小劇場演劇とは何か」を再考していくための、ひとつのきっかけになれば幸いである。
(後藤隆基)