編著/共著

竹﨑一真、山本敦久(編著)田中東子、重田園江、山本由美子、門林岳史、杉山文野、岡田桂、渡部麻衣子、標葉靖子、隠岐さや香、久保友香、関根麻里恵(著)

ポストヒューマン・スタディーズへの招待 身体とフェミニズムをめぐる11の視点

堀之内出版
2022年3月
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本書は、2021年に成城大学グローカル研究センター主催に開催された連続シンポジウム「ポストヒューマニティ時代の身体とジェンダー/セクシュアリティ」(全5回)の再構成・再編集をおこなったものである。これまでにもポストヒューマンやポストヒューマニズムという言葉が冠された書籍は数多く発表されてきたが、本書はシンポジウム登壇者=書き手の立ち位置から見出される具体的な事象を出発点とし、すでに私たちの身の回りに氾濫するポストヒューマン状況──人間とテクノロジーの相互作用ないしは相互依存的状況──についてどのようにして議論していくべきか、場合によってはどのようにサヴァイヴしていくかを思案するきっかけとなる一冊である。

そもそも「人間(human)」が白人/男性/ヘテロセクシュアルを体現する者たちを指し、彼らを基準に歴史や規範が作られ、彼ら以外の性別/人種/セクシュアリティをもつ者たちは劣った存在として見なされてきたことは、フェミニズム運動および研究のなかでも指摘されてきた。本書でも頻繁に登場するフェミニスト思想家のロージ・ブライドッティは、ポストヒューマンを上記のような「人間」観を批判する概念としてのみならず、そうした「人間」中心的な人間観が有効ではなくなってきている状況を批判的に検討する概念として使用している。

ブライドッティのポストヒューマン概念を基盤として編まれた本書は、副題に「身体とフェミニズムをめぐる11の視点」とあるように、第1部から第4部までは身体やフェミニズムの観点から具体的な事象──トランスジェンダー・アスリート、フェムテック、シンデレラテクノロジー、生殖技術──を取り上げ、第5部でポストヒューマンという用語や思想がどのように議論・発展してきたのか、そして、しばしば人文学のなかで数多く生み出された〈ポスト〉の思想を問う流れになっている。読者にとって比較的身近だと思えるような例から出発し、徐々に本質的な問題へと読者を導く、まさしく招待するような構成だといえるだろう。

最後に、一際目を引く表紙・裏表紙のカバー写真に注目してみたい。アートユニット米谷健+ジュリアが珊瑚の白化(=死滅)現象を磁器土で表現した作品《Dysbiotica》で、表紙は妊婦、そして裏表紙は男性を模している。編者の一人である竹﨑一真は、本作における珊瑚の白化(=死滅)現象は、寿命を迎えたことで死滅したわけではなく人為的に引き起こされた死滅であるという作者二人の解説を踏まえ、「人間中心的な歩みがこうした事態を招いた※1」とまとめている。作品の意図を念頭に置きながら改めて表紙・裏表紙を見てみると、本書の目指すところが視覚的にも表現されているとみなすことができるかもしれない。

※1 竹﨑一真「おわりに」竹﨑一真・本敦久編『ポストヒューマン・スタディーズへの招待──身体とフェミニズムをめぐる11の視点』堀之内出版、2022年、202頁。

(関根麻里恵)

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年10月23日 発行