映像が動き出すとき 写真・映画・アニメーションのアルケオロジー
本書は、「アトラクションの映画」という概念で著名な映画史・メディア史研究の泰斗トム・ガニングが、21世紀になって書いた諸論考の中から9本を選んで編んだ日本語オリジナルの一書である。さまざまな雑誌や論文集の依頼に応じて書かれた各論考は、リュミエール映画、偽造写真、ウインザー・マッケイのコミック、ファントム・ライド、ソーマトロープやゾートロープなどの視覚的玩具、フリップブックやブローブックなどの奇術的書物、アニメーション、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の特殊効果など多様な視覚文化を扱っているが、それらのテーマは一貫してイメージの「動き」であると言える。
映像文化のデジタル革命は、それまでの映画理論がベンヤミン、バザン、バルトらの議論を参照しながら「インデックス性」を基礎に置いていたことを事実の側から覆してしまった。そうした状況に応じて、マノヴィッチのように映画をアニメーションの一ジャンルとして位置づけるような論考も出現した。そのマノヴィッチの議論を受け止めつつも、映画とアニメ―ションに優劣をつけることなく、同じ枠組みのなかで議論するためのキーワードとしてガニングが持ち出したのが「動き」なのだ。映像文化はイメージの「動き」を体験する身体的快楽なのだという、ある意味で冗長にしか見えない議論が、いかに豊かでダイナミックな思考的成果を生み出していくかについては、実際に本書に当たって確かめて頂くしかないだろう。
(長谷正人)